平気で「眠らない」日本人が知らない、睡眠不足がもたらす残念な結果:働き方の「今」を知る(4/6 ページ)
日本人の睡眠時間は短すぎる。睡眠不足は、従業員と企業にどのような悪影響を及ぼすのか。なぜ、勤務間インターバルは浸透しないのか。睡眠と働き方を巡る現状を整理する。
「勤務間インターバル制度」を巡る現状
ここで勤務間インターバル制度を巡る現状について整理したい。
勤務間インターバル制度とは、1日の勤務が終了した後、翌日の始業時刻までの間に、一定時間以上の休息時間(=インターバル)を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを保つことを目的としたものだ。
例えば「9時始業、17時終業」の会社が「11時間の勤務間インターバル制度」を導入したとしよう。繁忙時期に23時まで残業してしまった人は、終業後11時間のインターバルを置かねばならないので、翌日の始業時間は10時に繰り下がることになる。もしくは組織として「9時始業」を固定させたい場合、「どんな事情であろうと、22時以降の残業は絶対不可」といった規定を設けて、インターバル時間を確保することになるわけだ。
一般にはまだ広く知られていない制度かもしれないが、既に2019年の「働き方改革関連法」施行時点で、勤務間インターバル制度導入は事業主の「努力義務」となっている。
21年に「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更が閣議決定された際には、20年ぶりに労災における過労死の認定基準が変更。従前は労働時間の長さが負荷要因として重視されていたが、今後は「勤務間インターバルが短い勤務」「身体的負荷を伴う業務」といった、労働時間以外の労務管理の内容についても考慮されることとなった。
同時に、令和7年(25年)までに「勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を5%未満とする」「勤務間インターバル制度を導入している企業割合を15%以上とする」との数値目標が定められている。
しかし、厚生労働省が国内の民間企業6387社から回答を得た「令和4年就労条件総合調査」によると、勤務間インターバル制度を「導入している」と回答したのは5.8%、「導入を予定又は検討している」が12.7%、「導入予定はなく、検討もしていない」が80.4%となっている。
また「当該制度を知らなかった」と回答した企業割合は17.1%で、導入済企業の割合は経年では徐々に増えてはいるものの、このまま増加率が変わらなければ、25年での導入済企業割合は8〜9%程度と見込まれている。目標達成への道のりはまだ遠そうだ。
欧州諸国における勤務間インターバル制度
ご参考までに、勤務間インターバル制度導入で先行している欧州諸国の例をみてみよう。
EUにおける法令形態の一つに「指令」というものがある。これはEU加盟国に対して完全な拘束力を持ち、加盟国は締切期限内に立法化して国内法として規定しなければならない義務を負っている。欧州における勤務間インターバル制度は、1993年に制定された「EU労働時間指令」において、「加盟国は、全ての労働者に、24時間ごとに最低でも連続11時間の休息期間を確保するために必要な措置をとる」との形で定められた。
これに基づき、例えばドイツ、フランス、イギリスでは11時間、ギリシャ、スペインでは12時間の勤務間インターバルを法制化している。規定時間が確保できない場合は、代替日に繰り越したり、補償を設けたりする決まりになっている。
管理職や軍隊、警察など、一部の役職や職種によって適用除外は存在するものの、国が休憩時間の確保を義務付けることで、働きやすい環境づくりの一助となっているのは間違いないだろう。
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