【後編】新規上場ハルメクの快進撃 爆売れの裏側にある、地道な作業と圧倒的データ量:ハルメク編集長に聞く(1/2 ページ)
ハルメクホールディングス(新宿区)が3月23日、東京証券取引所グロース市場に新規上場した。同社は年間定期購読誌「ハルメク」の出版を柱に、Webメディア「ハルメク365」、通販、セレクトショップの運営など幅広いシニア女性向け事業を展開することで知られている。出版不況が続く中、シニア女性向けというニッチな領域で、かつ定期購読という特殊なプロダクトをどのように成長に導いたのか。山岡朝子編集長に話を聞いた。
3月23日、東京証券取引所グロース市場に新規上場したハルメクホールディングス(新宿区)。5年前まで売上が低迷していた同社の柱事業、年間定期購読誌「ハルメク」を復調に導いた変革の歩みとは? 前編に引き続き、山岡朝子編集長への取材を通して同社独自のマーケティングに迫る。
読者属性を正確に把握できる強みを生かして
前編では、編集部とマーケティング部との分断を解消し、読者ニーズを反映した誌面作りを実現するまでのストーリーを紹介した。では具体的に、ハルメクではどのような手法をもって、「インサイトの深掘り」を行っているのか。背景には、定期購読誌ならではのデータ蓄積がある。まず、マーケティング活動の資源となるのが広告の効果測定データだ。
ハルメクでは、購読申込の電話を自前のコールセンターで受けているが、その際CA(コールエージェント)が口頭で聞き取り調査を実施する。新聞、テレビCM、Webとある広告のうちどれを見たのか。新聞なら何新聞で、朝刊か夕刊か――といったタッチポイントを最初に聞き、該当する広告の中に記載されている特集タイトルの中で、どれにひかれて購読を申し込もうと思ったのかを挙げてもらう。この地道な作業を全ての購読申込者に対して電話で行い、アテンション(注目、関心)がどこにあるのか広告効果を測定する。
これらのデータは、コールセンターから毎日、翌日にはマーケティング部に上がってくる。マーケティング部はそのデータを基にして、次回の広告制作を編集部と一緒に検討する。
「広告内容は特集内容を把握している編集部と、アテンションを把握しているマーケティング部が話し合って決めています。編集部から特集に適したコピーを提案すると、マーケティング部が過去、アテンションが高かったキーワードや特集に関するデータを出し、それを基に編集部が再考する、といった具合です」(山岡さん)
同時に編集部は、読者満足度データを資源に読者インサイトを探っている。ハルメクでは、シンクタンク主導で発行2週間後に読者へアンケートを郵送で送付する。郵送にしている理由は「バイアスの排除」だ。メールやWebアンケートにすればコストを減らすことができる。しかしそれでは「メールやWebで回答できる読者だけの意見」しか集まらず、データにバイアスがかかる。ハルメクはシニア向け媒体であるため、全ての読者が対応できる郵送アンケートが適しているとの判断だ。
アンケートには、特集から小さな連載に至るまで、全てのページについて「読んだか読んでいないか」を、そして読んでいる場合は5段階評価をつけてもらい、返送してもらう。この集計結果を、読者満足度データとして蓄積する。
そもそも「本を購入した人」を把握することは、一般的な雑誌では難しい。書店に配本したあとで、どこの誰が、どの特集を読みたくて買ったのか。実際にどのページを読んで、どう思ったのかを追跡することはできない。
「読者属性を正確に把握できること、その上で意見を聞けることは、定期購読誌の大きな強みです。一般的に雑誌でアンケートを取る際は、プレゼントをつけて行動を促します。それでも、例えば化粧品なら美容意識の高い読者が、車や旅行なら子どもがいる読者が多く応募してくる――といったように、どこまでいっても集計できるデータにはバイアスがかかります」(山岡さん)
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