【後編】新規上場ハルメクの快進撃 爆売れの裏側にある、地道な作業と圧倒的データ量:ハルメク編集長に聞く(2/2 ページ)
ハルメクホールディングス(新宿区)が3月23日、東京証券取引所グロース市場に新規上場した。同社は年間定期購読誌「ハルメク」の出版を柱に、Webメディア「ハルメク365」、通販、セレクトショップの運営など幅広いシニア女性向け事業を展開することで知られている。出版不況が続く中、シニア女性向けというニッチな領域で、かつ定期購読という特殊なプロダクトをどのように成長に導いたのか。山岡朝子編集長に話を聞いた。
しかしハルメクの場合、読者が何歳でどの地域に住んでいるのかといった基本データは、調査しないでも全て握れている。そのため「この企画は60代の閲読率が高い、閲読率は低いけど5段階評価が高いといったように、購読歴や年齢でゾーニングした上で細かく分析することも可能です」(山岡さん)
「65歳のハナコさんのためにハルメクを作る」 データで具体化する読者像
またアンケートの中には「ある質問」が必ず入っているという。これによって、その読者がどういう価値観を持っているのかというクラスタ分析が実現する。山岡さんは「あまり詳しくはお話しできないのですが」と前置きをした上で、こう話す。
「簡単にいえば、現状維持を望むのか、より良くしたいと思っているのか。もしくは社交的なタイプなのか、1人の時間を大切にするタイプなのか――といったことが分かるイメージでしょうか。全部で7タイプのクラスタに区分けをし、その中でハルメクがターゲットとして定めているクラスタに属する読者の満足度が最大になるよう、コンテンツ制作を行っています。
もちろん、該当しない層を大切にしないという意味ではありません。ただ、読者が50万人いても100万人いても、その中に具体的な読者像を描くことで、魅力的な誌面が生まれます。私は『65歳のハナコさん』を思い描いて、彼女のためにハルメクを作っています。編集部としても、毎号ハナコさんがどう思ったのか、そこの満足度は別途抽出をして次号の企画検討にあたっています」(山岡さん)
このようにハルメクでは、自社でシンクタンクやコールセンターを持っているという強み、そして定期購読誌という特性を生かして3種のデータを蓄積し、活用している。1つ目は「なぜ購入したのか」というアテンションデータ、2つ目は「読んでどう感じたか」という読者満足度データ、そして最後は正確な読者属性データだ。
山岡さんは「もともとハルメクは、データを蓄積できる恵まれた環境にありました。この5年間は、それらを分析し、フィードバックし、誌面や広告に生かすといった取り組みが順調に回っています。それが売上成長に大きく貢献しているのは間違いありません」と話し、笑顔を見せる。
雑誌からWeb媒体へのシフトも「コンテンツは不滅」
ハルメクが今後、目指すのは「デジタルシフト」だ。22年8月には情報サイト「ハルメク365」を新たにオープン。18年8月にスタートした「ハルメクWeb」をリニューアルしたもので、雑誌と同じくらい質の高い内容を発信するサブスクリプション型のメディアとして運営する。
「シニア向けとはいえ、やはりハルメクとしても紙媒体が永遠に続くとは考えていません。だけど『コンテンツ自体は不滅』です。シニア世代が情報を求める先が、雑誌からWebへとシフトする日はいずれ訪れます。そんな未来に備えるためにハルメクWebをスタートし、十分なPVを得られるまで成長したためハルメク365へとリニューアルしました」(山岡さん)
今後は、一方的にコンテンツを提供するだけではなく、読者同士がコミュニケーションを図れる、そんなシニア女性たちの居場所となるプラットフォームへとハルメク365を成長させたい考えだ。
昨今、マーケティングでは顧客のパーソナルデータを生かしロイヤリティー向上施策を打つことが重要とされている。「顧客が求めていること」を可視化し、サービスをアップデートすること。そしてハルメクと同じように「わが社のハナコさん」を持ち、ファンを創出し続けることは、多くの企業にとって必要な視点なのかもしれない。
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