「ポン!」の音が消えた 脱ハンコが広がって、シヤチハタはどんな手を打ったのか:週末に「へえ」な話(2/4 ページ)
「脱ハンコ」の動きが広まっているが、大手ハンコメーカーのシヤチハタはどのように対応しているのだろうか。時代の流れに取り残されているのでは? と思いきや、自社の技術を生かして「B2C」でヒット商品を連発していたのだ。担当者に開発の秘話を聞いたところ……。
このままでは“インカン”
シヤチハタが創業したのは、1925年のこと。長年、スタンプ台やハンコなどをつくってきて、ビジネスモデルはB2B。オフィスで使うモノを中心に扱ってきたが、B2Cに目を向けたきっかけはリーマンショックである。
それまでの売り上げ構成比を見ると、95%が企業向け。業績は安定していたので、既存のビジネスを継続してきたものの、リーマンショックによって方針が大きく変わった。なぜか。それまで会社の事務用品はどのように購入されていたのかというと、担当者が「これとこれとあれとそれね」といった感じで、まとめて発注しているケースが多かった。
景気が比較的安定していたこともあって、コストのことをあまり気にせずに注文していたのかもしれない。が、しかしである。不景気の波が一気に押し寄せてきたこともあって、スタンプ台などの注文数が減っていった。それだけではない。会社によっては「自分で使う文具は自分で購入せよ」といったスタンスに変わって、それぞれが文具店などで気に入ったモノを買うといった流れが生まれてきたのだ。
となると困ってしまうのは、シヤチハタである。「大変だ。このままでは“インカン”」と言ったかどうか定かではないが、それまでの一本足打法から脱却して、一般消費者に目を向けることになったのだ。
とはいっても、すぐに結果が出たわけではない。なにから手をつけていいのかよく分からなかったので、とりあえず市場調査を始めた。消費者はどんなモノに興味をもっているのか。例えば、スタンプ台はどんな色を欲しいと思っているのかなどを聞いて回った。
このような話を聞くと、「はあ? そんなことも調査したの? デコレーションを楽しみたい人であれば、たくさんの色を使いたいと思っているでしょ。素人のオレでも分かるぜ」と思われたかもしれないが、そこは会社の歴史を考えていただきたい。
創業からずーっとB2Bのビジネスを展開してきた。スタンプ台の色も仕事で使う「黒」「赤」「藍」「緑」「朱」「紫」の6色のみ。これで事足りていたので、商品企画部の滝澤一さんは「これまで新しい色をつくろうという発想はなかったですね」と語っていた。
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