カーボンニュートラル燃料はエンジンを救うのか 欧州で始まったエンジン擁護論:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
EUの2035年エンジン車販売禁止策が、見直されることになった。クルマすべてをEVに置き換えるのは、あまりにも無謀だということをドイツが認めたからだ。そこで登場したのがCNF(カーボンニュートラルフューエル)。関係者は注目を集めているが……。
こうして見ると代替燃料へエンジンを適応させる能力については、日本のエンジンメーカーはすでに有していると言ってもいい。であれば、課題は代替燃料をいつどうやって普及させるか、ではないだろうか。
CNFはエンジンで利用できる環境に優しい燃料ではあるが、それを作り出すためには出来上がった燃料以上のエネルギーが費やされるのだ。それが持続可能かと聞かれれば、筆者は首を傾げるしかない。
低コストでエネルギーロスの少ない液体燃料を作り出すには、自然の力を利用するしかないのだ。再生可能エネルギーを使えばいい、というのは一見、理に適っているが、そもそも家庭用や工業用の電力も脱炭素を進める必要があるのであれば、再生可能エネルギーに頼ることになり、その発電容量は途端に使い切ってしまうだろう。
先頃政府が掲げた「2030年までにCO2の排出量を2013年比で45%削減する」という目標は立派なものだが、それをどうやって実現するか、技術の開発だけでは絵に描いた餅で終わってしまいかねない。
日本車潰しでもあったEV一本化が中国の市場支配力を高めるだけと分かった欧州は、水素利用やエンジンを維持するためにCNFの導入を進めようとしている。自動車メーカー頼りの姿勢ではなく、政府が直接乗り出してバイオ燃料、バイオエタノールからの水素精製を推進するようでなくては、日本の自動車産業を守れず、カーボンニュートラルも達成できないのではないだろうか。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。
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