続く閉店ラッシュ…… 生き残る「和菓子店」は何が違う? プロが注目する京都の有名店:長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/7 ページ)
コロナ禍で有名な老舗和菓子店の閉店が相次いでいる。その一方で、革新的な商品を次々と生み出すお店もある。プロが注目する京都の繁盛店とは?
突然の発表
22年5月16日、突如として和菓子チェーン紀の国屋が廃業した。当日に自社公式Webサイトや公式Twitter、店頭の張り紙で発表した。
1948年に東京都立川市で創業して以来、多摩地区と新宿、神奈川県北東部に23店を展開。京王百貨店新宿店、伊勢丹立川店、マルイファミリー溝口店、東急町田店など、百貨店への出店も多かった。コロナ禍で百貨店が営業自粛をしていたり、密になるのを避ける人が多く集客が極端に落ちていたりしたため、日銭が入らなくなって経営は急速に悪化していた。
70年以上も営業を続けてきた老舗の和菓子店にしては、あまりにあっけない最期だった。
しかし、事態は急転直下。6月3日、紀の国屋を解雇された元従業員20人を雇用して、味の再現を目指す新ブランド「匠紀の国屋」が立ち上がり、東京都の国分寺市と東大和市に同時オープン。7月1日に3店舗目が東京都武蔵村山市に開店した。
わずか半月で紀の国屋は生まれ変わって復活した。匠紀の国屋の反響は大きく、昔からなじみだった紀の国屋の名物が再び食べられるというので、国分寺店では初日のオープン前から10人ほどの行列ができた。
最初は、紀の国屋の看板商品のうち、「相国最中」の味を引き継ぐ「最中」からスタート。7月には、どら焼の「おこじゅ」の味を継ぐ「こじゅう」、大福の人気商品だった「あわ大福」を相次いで発売した。
匠紀の国屋を経営するのは、東京都文京区に本社があるアイ・スイーツで、21年1月の設立。インターネットで菓子の販売を行ってきた。
アイ・スイーツの元になっている、アイ・パートナーズ(東京都文京区)を中心とするアイ・パートナーズグループ5社では、経営コンサルタント業、税理士事務所、ITサービス、ネット販売などを手掛けている。
アイ・パートナーズでは、「紀の国屋にはコンサルとして入っていたので、事情はよく分かっていた。破綻は想定内」(伊藤友幸代表)とのこと。紀の国屋の生産管理や営業のバックオフィス、財務状況、銀行の対応について熟知していた。どうすれば再生できるのか、復活のシナリオが直ちに描けたため、電光石火で匠紀の国屋立ち上げができたという。
もともと、紀の国屋のお菓子の製造ノウハウは、紙に記したレシピがあるわけではなく、職人の頭の中に入っているものだった。従って、解雇された元職人を確保すれば、味の再現ができた。
しかし、3年間のコロナ禍により贈答の習慣がいったん途切れてしまった影響は大きかった。店舗の売り上げは、贈答需要が思ったほど戻らず、想定したほどではないそうだ。そこで、非接触で販売できるネット通販を立ち上げた。
一方、百貨店などで行っている催事は好評で、かつて紀の国屋の店舗があった地域で催事を行うと、非常に売れ行きが良い。東京・立川駅の駅ビルのグランデュオで、毎週の土日に催事を開催。東銀座の歌舞伎座でも催事を行って、販売は好調だ。
紀の国屋に限らず、多くの和菓子屋は、バブル期の1992年頃がピークで、徐々に売り上げが落ちている。現在は、ピーク時の6割くらいにまで落ちているのではないかと伊藤代表は分析する。衰退の原因として「その頃のヒット商品に頼り、新たな看板商品を生み出せない」が挙げられるという。
「洋菓子に比べても、革新が足りない。洋菓子の世界では毎週のように新しい商品が生まれている。和菓子でも京都の店は革新的な商品が多く、学ぶ面が多い」と語る。京都の和菓子店については後述するが、洋菓子の要素を取り入れたり、サイズを小さくしていろんな味を試せるようにしたりしている。また、インスタ映えする商品や、もともとのロングセラーから派生した商品を開発。さまざまな工夫を凝らしている。
「今後は京都の和菓子店を見習って、新商品にチャレンジしたい」と伊藤代表は意欲的だ。
既に、主力商品から派生した新商品を出し始めている。「こじゅう」にマスカルポーネチーズを合わせた生菓子や、「最中」をキューブ状にしてカラフルに色付けした一口最中を発売中だ。
1〜3月には「あわ大福」に高級いちごを合わせた、いちご大福を販売して好評だったという。今後の新商品の展開、新店の出店に期待したい。
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