なぜヘッドライトがまぶしく感じるクルマが増えているのか:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
夜間、クルマを走らせていて、対向車や後続車のヘッドライトがまぶしく感じることがある。その原因はどこにあるのか。大きくわけて3つあって……。
クルマの運転と視力の関係
われわれが最近のヘッドライトをまぶしく感じるのは、目のメカニズムと加齢も原因の一つらしい。ドイツの老舗レンズメーカーの日本法人である、カールツァイスビジョンジャパンにクルマの運転と視力の関係について取材したことがある。
それによるとまずLEDランプやHIDランプの蒼白光はエネルギーが大きく、瞳の中に入っても減衰が少なく眼球内を反射してまぶしさを感じるそうだ。
従来のハロゲンランプによる光と、LEDやHID(キセノン)ランプによる光の比較。450nm付近の波長の光が多く、高いエネルギーを有しているため眼内で反射しまぶしさを感じさせる(写真:カールツァイスビジョンジャパン)
3つめの原因は、ドライバー自体の問題だ。加齢によって眼球内部を満たす硝子体にも不純物が生じ、水晶体も濁りが生じてくるため光が乱反射することでまぶしさを感じるのだとか。つまり高齢化によっても、まぶしく感じるドライバーが自然と増えているのである。だから前述のクルマの姿勢変化などによるチラつきにも過敏に反応してしまうらしい。
対策としては夜間のドライビングに適した眼鏡を使用することだ。眼鏡レンズメーカー各社から、ドライビング用のコーティングが施されたレンズが用意されている。これにより幾分、まぶしさは軽減されるので安全性が高まるとともにストレスも軽減されるだろう。
周囲が暗くなるとヘッドライトを自動点灯するオートライトが2020年より義務化されたが、これにより無灯火で走るドライバーを減らすことはできても、灯火類の操作をクルマ任せにしてしまうドライバーを増やすだけで、根本的な解決にはつながらない。
ロービームの光量の上限に規制がないことも原因の一つだ。クルマの姿勢変化によってチラつきや対向車を幻惑する可能性がある以上、灯火類の光量にはキチンと上限を決めたほうがいい。明るすぎるライトは光害にもなり得るのだ。
ただ車両法の適正化や道交法の周知だけで解決するのではなく、高齢ドライバーのペダル踏み間違いや免許返納などと同様、本質的にはドライバーの意識を変えていかねばならない問題なのである。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。
関連記事
- なぜSUVは売れているのか 「しばらく人気が続く」これだけの理由
街中でSUVをよく見かけるようになった。各社からさまざまなクルマが登場しているが、なぜ人気を集めているのだろうか。EV全盛時代になっても、SUV人気は続くのだろうか。 - なぜプリウスは“大変身”したのか トヨタが狙う世界市場での逆転策
トヨタが新型プリウスを発表した。発売はまだ先なので、車両の詳細なスペックなどは分からないものの、その変貌ぶりが話題になっている。それにしても、なぜトヨタはこのタイミングで発表したのか。背景にあるのは……。 - マツダCX-60は3.3Lもあるのに、なぜ驚異の燃費を叩き出すのか
マツダCX-60の販売状況が、なかなか好調のようだ。人気が高いのはディーゼルのマイルドハイブリッドと純ディーゼルで、どちらも3.3Lの直列6気筒エンジンを搭載している。それにしても、3.3Lもあるのに、なぜ燃費がよいのだろうか。 - なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。 - 次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.