新幹線の自動運転 JR東日本、JR西日本、JR東海の考え方の違い:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/7 ページ)
JR東日本とJR西日本は5月9日、連名で「新幹線の自動運転について技術協力します」と発表した。JR東海は翌日の深夜から未明にかけて、自動運転の報道公開と試乗会を開催した。JR東日本、JR西日本、JR東海東海はこれまで、自動運転の試験や実験を行ってきた。しかし、各社で考え方が異なる。
共通点は「機械と人の役割分担を最適化する」
JR東海は自動運転の導入に当たり、すべての駅に可動式ホーム柵を設置する。運転士は運転操縦の負担が減るぶん、車掌の業務だったドアの開閉、発着時の安全確認を実施する。また、列車乗務員の責任者として、車掌やパーサーを統括する。車掌は旅に不慣れなお客のサポート業務に注力し、巡回強化によってセキュリティを向上する。現在、警備会社に外注している車内巡回は車掌が行うから、コスト削減の要素は外注警備費かもしれない。
ちなみに国鉄時代は「車掌」「旅客専務車掌」という役割分担があった。車掌はドアの扱いや非常ブレーキの操作など、主に機械を扱う安全管理業務があった。その後、特急列車など長距離列車できっぷの乗り越し精算、無札乗車や迷惑客の対応などの業務が増えたため「旅客専務車掌」としてサービス要員が分離された。
企業人事としては「今後は運転士よりも車掌を採用しますよ」となり、「現在の運転士は今後、車掌に配置転換しますよ」となる。それは、機械のような仕事から人間を解放し、人間は人間らしさを生かせる仕事をするべきだ、という考え方だ。
ただし「新幹線運転士」という職種はなくならない。自動運転路線とはいえ、バックアップ要員として運転免許を持った社員は必要になる。自動運転の路線といえば、19年の金沢シーサイドライン逆走事故のあと、原因究明と改善までの間は有人運転となった。免許を持つ社員を総動員して、通常時の65%の運行本数を確保している。本来は100%の運行本数としたいところだ。自動運転になっても、運転席はなくせない。
JR東日本とJR西日本の自動運転は、無人運転を目指す。しかし、自動運転はJR東海のような「リアルタイムで運転曲線を描き直す」形になるだろう。すでに開発しているかもしれないし、これからの課題かもしれない。
JR東海は「GoA2.0の28年導入」を表明した。28年に新製するN700S、あるいはその後継車種から自動運転システムを搭載する。無人運転については採用時期を明らかにしなかった。「次の研究課題とする」とのことだった。
JR東日本とJR西日本、JR東海は、異なる目標と時期を掲げているけれども、実は同じ道をたどっているように見える。JR東日本、JR西日本、JR東海の3社が提携したら、完璧な新幹線自動運転システムができると思う。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
関連記事
- 次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。 - ドラえもんがつくった地下鉄は公共交通か? ローカル線問題を考える
『ドラえもん』に「地下鉄を作っちゃえ」という話がある。のび太がパパのためにつくった地下鉄は公共交通と認められるか。この話をもとに、公共交通になるための過程、利用者減少から撤退への道のりを考えてみたい。 - 2025年の大阪・関西万博で、鉄道の路線図はどうなるのか
2025年に大阪、夢洲で「2025年大阪・関西万博」が開催される。政府は主要公共交通機関に大阪メトロ中央線を位置付けた。このほか会場へのアクセスには船とバス、さらに具体化していない鉄道ルートが3つ、近畿日本鉄道の構想もある。また会場内の交通には、3種類のモビリティが計画されている。 - 不人気部屋が人気部屋に! なぜ「トレインビュー」は広がったのか
鉄道ファンにとって最高の「借景」が楽しめるトレインビュールーム。名が付く前は、線路からの騒音などで不人気とされ、積極的に案内されない部屋だった。しかし鉄道ファンには滞在型リゾートとなり得る。トレインシミュレーターや鉄道ジオラマなど、ファンにうれしい設備をセットにした宿泊プランも出てきた。 - 東京メトロ「有楽町線」「南北線」の延伸で、どうなる?
東京メトロ有楽町線と南北線の延伸が決定した。コロナ禍で事業環境が大きく変化する中、東京メトロが計画する今後の戦略とは。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.