世界はマルチパスウェイに舵を切った! 「BEVはオワコン」という話ではない:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
カーボンニュートラルの早期達成に向けた取り組みが、各所で進められている。最近発表された4つのニュースを見ていこう。
24時間レースのトップカテゴリーに水素燃料車の参加を認める
4つ目は、欧州のレース界からの発表だ。23年に100周年を迎え、世界的知名度を誇る「ル・マン24時間レース」の主催者であるACO(フランス西部自動車クラブ)のピエール・フィヨン会長が来日し、5月27〜28日に開催された「スーパー耐久シリーズ 2023 NAPAC 富士SUPER TEC24時間レース」の会場で会見を開いた。
フィヨン会長は、26年からル・マン24時間レースのトップカテゴリーに水素燃料車の参加を認めると発表し、対象となるのは燃料電池車(FCEV)と水素内燃機関(HICE)を搭載する車両であると説明した。おそらく長期的にはF1同様、化石燃料を使う車両は禁止されていく方向になると思われることから、この伝統ある耐久レースはやがて水素燃料で争われることになりそうだ。
スーパー耐久富士24時間レースの会場で会見を開くために来日したフィヨン会長(右から2人目)。左からトヨタの佐藤恒治社長、マツダの毛籠勝弘次期社長、右端はスーパー耐久シリーズのオーガナイザーである桑山晴美事務局長
ということで、e-FUEL、水素を含むマルチパスウェイを望む声が、今各方面から上がっていることになる。
毎度のことだが念のために書いておけば、これは「BEVはオワコン」という話では全くない。当面BEVの比率は上がっていくだろうが、世界の全ての自動車需要をBEVだけで満たすことはできない。BEVでは不可能な領域をe-FUELや水素で補完しないと、社会のサステナビリティが損なわれてしまう。
何度も書いてきたことだが、BEVの問題のほとんどはバッテリーに起因している。世界は多様なので、地域や人々の生活ごとに細かく言えば多くの問題があるのだが、大きくは2つ。
まず全ての需要を満たすには鉱物資源が足りない。そしてBEVの命綱とも言える出先での急速充電の事業化プランが全くできていない。現在成立しているものは“誰か”の負担で成り立っているものだけだ。ほとんどが公的な負担、つまり税によるものか、特定企業の負担によるもので、負担できなくなれば終わりである。本来それは利用者の支払う料金によってサステイナブルな形になっていないとおかしい。
付け加えるならば、BEVは生産時に多くのCO2を排出する。CO2の排出量がHEVと拮抗し、生産時の超過分を超えるのは10万キロ程度の走行後といわれている。仮に半分の5万キロとしても、年間走行1万キロで計算すれば、生産時に5年分のCO2を排出してしまう。
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