モスの黒毛和牛バーガーは「690円」でよかったのか “高級路線”に踏み切れないワケ:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
モスバーガーの業績が低迷している。原料の高騰に加えて、人件費や光熱費がかさんで、直近の数字は最終赤字に沈んだ。ピンチを乗り切るにはどうすればいいのか。
モス低迷の根本的な原因
本来の価値からあり得ないほどの「安売り」は、短期的には消費者をハッピーにする。しかし、価値を大きく下落させるので、その皺寄せが労働者に「低賃金」としてのしかかる。生活が苦しくなった労働者は消費者でもあるので、企業に対して「もっと安く」「値上げするなんて殺す気か」と怒声を浴びせる。そうなると、企業はさらに「安売り」をするので、モノの価値が下がっていく。
「コスパ」の名のもとで、この悪循環を数十年間続けてきてのが「安いニッポン」だ。残念ながら、モスバーガーは高級路線へ舵(かじ)を切ることの必要性は分かっていながら、いまだにこの悪循環から抜け出していない。抜け出していないどころか、「誰かを犠牲にしてモノを安く売る」という先祖返りのようなスタイルに突き進んでいる恐れもある。
これこそが、モス低迷の根本的な原因ではないか、と個人的には思う。
こんな話をすると、「そんなこと言っても、どうやって高級路線に転換すりゃいいんだ? モスプレミアムだって2店舗しかないってことは、高級路線にしても現実的にもうからないってことでしょ」という意見もあるだろう。
確かに、筆者ももはや日本国内で、どこかの企業が自力で値上げをしていくことは難しいのではないかと思っている。日本は自民党の「大人の事情」もあって、諸外国のように国策として最低賃金の引き上げができない。
「賃上げは景気が良くなったら企業が自発的にやるものだ」という日本独自の妄想のような思い込みがあるが、これまでの日本の歴史を見ても、自発的に賃上げしているのは大企業のみだ。
日本企業の99.7%を占める中小零細企業はどんなにバラマキされても、運転資金にあてるだけなので、日本の労働者の7割の給料は30年ほど上がっていない。つまり、この先も一般庶民の生活水準が上がる見込みは乏しいのだ。
ということは、いくらコストが厳しくてもモスバーガーは従来の「安くてうまい」を追求していくしかない。ただ、それだけではジリ貧になるので「安売り」をしながら、その一方で、富裕層や外国人観光客にターゲットを絞った「高級ハンバーガー店」の比率をじわじわ上げていく、というのが現実的な戦略だろう。
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