モスの黒毛和牛バーガーは「690円」でよかったのか “高級路線”に踏み切れないワケ:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
モスバーガーの業績が低迷している。原料の高騰に加えて、人件費や光熱費がかさんで、直近の数字は最終赤字に沈んだ。ピンチを乗り切るにはどうすればいいのか。
誰かがツケを支払っている
それが非常に分かりやすい形であらわれたのが、昨年12月に発売された「一頭買い 黒毛和牛バーガー 〜特製テリヤキソース〜」と「黒毛和牛バーガー」だ。
ご存じのように、黒毛和牛は日本を代表するトップブランド牛で、いくら一頭買いといっても、それなりの高級価格になってもおかしくない。
実際、フレッシュネスバーガーが22年1月に「神戸牛バーガー」をデリバリー限定で発売したときは1700円。同年12月で店舗で発売したときも880円だ。では、この黒毛和牛バーガーはいくらかというと、690円だった。
「さすがモスバーガー、庶民の味方だぜ!」と大喜びする人も多いだろうが、これが日本の食をどんどん衰退している「諸悪の根源」だと思っている。
モスバーガーは「消費者のため」ということで真摯(しんし)な企業努力で、黒毛和牛をこの驚きの低価格で提供することに成功したわけだが、それによって黒毛和牛のブランド価値は大きく低下する。そうなると、それはブランド牛を育てている生産者や販売者にじわじわとボディブローのように効いてくる。
「ブランド価値の破壊」「安売りの無限地獄」に陥らないためにも、企業は付加価値を向上してモノの価格をじわじわと上げていかなければいけない。例えば、フレッシュネスバーガーは14年から毎年、和牛バーガーシリーズを販売しているが、当初の黒毛和牛バーガーは690円だった。それが9年を経て、神戸牛バーガーは880円。じわじわと価格を上げてきているのだ。
しかし、モスは黒毛和牛バーガーを9年前のフレッシュネスバーガーと同じ価格で売っている。9年前から原料も高騰しているし、最低賃金も上がっている。海外では日本円で2000円くらいのハンバーガーがザラにある。にもかかわらず、モノの価値が全く変わっていない。
消費者にとってはうれしい話だが、これは誰かが損をしているということだ。大量に仕入れているとか、調達コストを削減できたとか、いろいろ理屈はつけられるが、本来ならばもっと高く売れるものが、これだけ安く売られるようになるということは、どこかの誰かがそのツケ払っているということだ。
生産者かもしれないし、仲介している卸業者かもしれない。あるいは、牛肉を運送しているドライバーかもしれないし、店舗で調理をする人かもしれない。
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