スシローは「6700万円の損害賠償請求」を止めるべき、3つの理由:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
回転寿司チェーン「スシロー」を運営する「あきんどスシロー」が揺れている。備えつけの醤油の差し口や湯呑みを舐めまわしていた岐阜県の少年に対して、約6700万円の損害賠償を求めていることが明らかに。この対応は「吉」と出るのか、「凶」と出るのか。
スシローの行方はどうなる?
そういうプロの目から見ると、スシローの少年への損害賠償請求は中長期的なリスクを本当に考慮しているのか疑問である。
「偉そうに言うけれど、じゃあ、どうすればいいんだ」と思うだろう。もし筆者が本件に関わっていたら、まずはスシロー社長と少年とその家族の面談を実現して、メディアの前で公式に謝罪をさせる。プライバシーの問題もあるので、顔や名前を出さないまでも、少年に反省文を書いてもらいそれを公表する。可能ならば、実際に少年が読み上げている映像もマスコミに公開する。
そして、次は店舗への謝罪だ。厨房やアルバイト、そして常連客などの皆さんの話を少年が聞く場を設ける。糾弾をするわけではなく、スシローとして、少年に自分のやったことが、これだけの人々に迷惑をかけたということを理解させる。
そのような「みそぎ」が済んだら、スシローはこの少年にヒアリングを行い再発防止策のキーマンとして重用する。「当事者」の視点で、なぜこんな愚かなことをしたのか。周囲の友人たちの前で調子に乗ってしまったなど後悔を赤裸々に語ってもらう。
そして、それをまとめて冊子やポスターにして店内に設置する。啓発動画にしてホームページやSNSでも流していい。つまり、この少年に6700万円の損害賠償請求をするのではなく、「迷惑行為防止のキャンペーンの宣伝塔」として徹底的に活用していくのだ。少年や家族も訴えられるくらいだったら喜んで協力するだろう。
そこで少年と家族が「そんなことはやりたくない」と断ったら、その旨を公表して損害賠償請求でもなんでもすればいい。スシローとしては、あれだけ非常識なことをされた相手に対しても、寛容さを失わず、「対話」という努力を続けた。企業イメージが悪くなる要素はない。
しかも外食全体の問題である「迷惑行為」の防止という前向きなプロジェクトにまで協力を求めた。ここまで問題に真摯(しんし)に取り組めば、厳しい対処に正当性が生まれるのだ。
……と、いろいろ書いたものの、スシローの訴訟は3月に始まっているので、もう手遅れだ。果たして、少年はどれだけの損害賠償を支払うことになるのか。そのとき、スシローの企業イメージはアップするのか。そして客足は戻るのか。注目したい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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