拡大続くドンキ帝国 「長崎屋」「ユニー」買収で限界突破できたといえるワケ:小売・流通アナリストの視点(2/3 ページ)
ドン・キホーテを中心とした小売グループであるPPIHが、目覚ましい躍進を続けている。この30年における日本の小売業で最も成長した企業といってもいいだろう。PPIHが国内屈指の売上規模にまで成長した背景には何があるのだろうか。
「魔境」で繁盛店を生み出すドンキ
00年代以降、GMSの不振が続くようになると、多くの店舗が閉店するようになり、跡地は建て直されて新しい店舗として再構築されたり、居抜き物件として異業態の店舗に転用されたりしている。少し前であれば、ブックオフ、ハードオフといったリサイクル業態になるケースも多かったが、他にも出店コストを安く済ませたいディスカウントストアが替わって出店する場合も多かった。そうした業態の筆頭株がドン・キホーテであり、総合スーパーに限らず、百貨店、家電量販店、ホームセンターなどの大型店舗をドンキに転用することで出店を加速してきたことで知られている。
そして、元の店舗が業績不振で閉店しているにもかかわらず、ドン・キホーテに変わるとそのほとんどが採算を確保し、その後も長らく営業を続けている。ドンキがなぜ不採算店舗の跡地でも採算に乗せることができるのかといえば、価格訴求力によって広く集客できることが挙げられる。だが、それ以上にドンキという店が商品を売るだけではなく、空間を楽しむ時間消費の場を提供することができる数少ない小売業だからであろう。
行く頻度は別にして、ほとんどの人がドンキの店舗に行ったことがあると思うが、この店は短時間で必要なものだけを買って帰るという目的には向いていない。そもそも、ドンキはかつて、24時間営業によって深夜マーケットを開拓。深夜に時間つぶしをしたい人たちに、圧縮陳列という山積みの陳列方法を導入して、宝探しのような空間を提供することでついで買いをしてもらう、という特殊な店舗を作った。
このテイストは今でも受け継がれていて「魔境」と自称する暇つぶし空間をさまざまな趣向で構築し続けており、他の小売店舗にはないエンタメ性がこの店のウリとなっている。こうした小売業は世界でも稀であるため、訪日外国人にとっても、デスティネーションの1つにまでなっている。こうした希少性からドンキは不採算店の跡地であろうと、繁盛店に変えることができるのであり、そのために数多く放出されるGMS閉鎖店舗物件=ドンキの出店余地となってきたのである。
店舗跡地から企業ごと買い取る方向へシフト
GMS閉鎖店舗は1990年代〜2000年代初頭に多く出てきたが、一段落すると散発的となっていく。数多くのGMS閉鎖物件を再生した実績を積んだドンキはGMS店舗を企業ごと買い取る方向へと動く。長崎屋の買収がそれである。経営破綻後も紆余曲折の時代を経て、売りに出されていた長崎屋を企業買収することで、一気に数多くの出店余地を手に入れたのである。
そしてこの時、ドンキは長崎屋を“ただハコ”として活用するのではなく、スーパーとしての機能を残してドンキとの融合店舗として再生するという実験を行った。その結果、多くの店がドンキ、メガドンキとして再生し、その中にはスーパーとしての機能も残して再生することに成功した。この成功が後にGMS大手の一角であったユニーの獲得へとつながっていくのである。
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