未来の消費者とテナントに「選ばれる」ため、商業施設は何を担っていくのか:批判の種になったケースも(2/2 ページ)
近年、社会貢献や個性的なコンセプト、地域との調和などを打ち出す商業施設が目立つ。これからの時代に「選ばれる」施設にすることが必須だからだ。一方で、多様性を尊重するための取り組みが批判の種になったケースもある。
社会貢献の取り組みが「批判の種」に
一方、社会貢献のための施策が利用者にうまく伝わらず、反対に批判の種となってしまうケースもある。
4月に東急グループがオープンした複合施設「東急歌舞伎町タワー」(東京都新宿区)は、ホテルとエンターテインメント施設で構成される超高層ビルで、開業から約1カ月後には来館者数100万人を突破。新宿・歌舞伎町の代表的な観光・レジャー施設となり、順調に集客しているようだ。
しかし、オープン直後に注目を浴びたのは“トイレ”だった。
同施設では、2階に性別関係なく利用できる「ジェンダーレストイレ」を設置。SDGsの理念に基づき、多様性を認め合う街づくりの一環として導入したという。そのトイレに対して、SNSを中心に安全面を懸念する声が多数寄せられ、大きな話題になった。「誰でも入れる」構造を逆手に取った犯罪の発生などが懸念されたのだ。
そのため、オープンから数日後には、同施設のWebサイトにトイレについて説明する文書が掲載された。そこでは、ジェンダーレストイレ設置の経緯や防犯対策などを公表している。しかし、結果としてネガティブな意味で注目されてしまった。性的マイノリティなどの当事者の人たちにとっても、少なくとも当分の間は、本当の意味で「使いやすい」とは言えない場所になってしまったのではないだろうか。
そもそも、トイレを工夫することで集客につなげる取り組みはかなり前から多くの施設で行われてきた。主に女性客や子ども連れをターゲットに、広くてきれいで使いやすいトイレ空間を提供するという取り組みが目立つものの、近年では「オールジェンダートイレ」などを設置する施設も珍しくない。
しかし、比較的想像しやすい女性客向けと比べて、性的マイノリティなどの当事者にとっての利便性を追求するのは難易度が高そうだ。現状では何が不便で、どういうものがあったら心理的に安心するのか。どのようなリスクがあって、回避するためには何が必要か。身近で実感している人や専門家に深掘りして聞かなければイメージするのは難しいだろう。
CO2削減やエネルギー対策、地域社会への貢献はもちろん、多様性を尊重する取り組みも長期的な視点で「選ばれる」施設にするために必要な要素だ。世間の声を聞くだけでなく、企業として一貫した考え方や主張を示すことも、消費者の支持を集める傾向がある。しかし、企業として「これまで見ていなかった」部分に光を当てるのであれば、どんな些細な部分でも、より意識して視野と知識を広げ、想像力を働かせることが必要だといえそうだ。
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