「送料無料」はこのままだと“絶対”になくならない、歴史的な理由:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
ネットで買い物をする人にとって、常識となっている「送料無料」という言葉が消えるかもしれない。いわゆる「2024年問題」で、政府は物流の見直しを図っている。その流れの一環で、送料無料が問題視されているわけだが、本当になくなるのか。
「モノを運ぶのはタダ」という価値観
1904年から始まった百貨店の無料配達は、昭和に入ると競争が激化。東京では銀座・松屋が31年(昭和6年)に無料配達エリアを大拡張すると、三越、松屋、白木屋、高島屋も競い合うように、遠方まで無料配達をした。当時の新聞記事によれば、これらの百貨店で買い物をすると、千葉、野田、春日部、大宮、川越、八王子、横須賀あたりまで、トラックを操る配達員が、タダで自宅まで商品を届けてくれたという。
この手厚すぎるサービスは太平洋戦争で一度は消滅するが、高度経済成長期になると再び「日本の常識」として復活。そこで令和日本の送料無料と全く同じ問題が起きる。それは一言で言うと、「タダで商品を運ぶ労働者」の“負担重すぎる問題”だ。
百貨店からすれば無料配達は顧客をつなぎ止めておくため、自分たちがコストを負担しているサービスなので人件費はなるべく圧縮したい。そんな低賃金で重い荷物を遠方まで運ばされれば、トラック運転手や配達員は疲弊していく。ましてや今のように携帯もないので、住所が分からなかったり、不在の場合は何度も通ったりしていたのだ。
これを受けて60年代に入ると、百貨店の無料配達を見直すべきではないかという意見が出てきた。重い荷物を何キロも先までクルマで運んで「遅い」「言葉づかいが悪い」などと文句を言われるような重労働を「タダ」で提供し続けるのは、百貨店側も労働者側も限界だったのだ。
しかし、明治時代から「モノを運ぶのはタダ」という価値観が骨の髄まで染み込んでいる日本の庶民たちは、そういう「弱音」を吐くことを許さなかった。
それがうかがえるのが、63年1月に東京商工会議所が発表した「消費者世帯の買い物性向に関する調査結果」だ。これによれば、百貨店の無料配達継続を希望するのは78%にのぼって、有料にしてもいいのではないかというのは19%にとどまった。しかも、興味深いのは、配達員の負担が重いと問題になっている「重量商品」「かさの大きい商品」こそ配達無料にすべきという人が79%もいた。
高度経済成長期に百貨店で買い物をする人は、決して貧しいわけではない。にもかかわらず、配達員など甘やかすことなく、タダで重い荷物を運ばせておけ、と考えている。
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