「送料無料」はこのままだと“絶対”になくならない、歴史的な理由:スピン経済の歩き方(2/6 ページ)
ネットで買い物をする人にとって、常識となっている「送料無料」という言葉が消えるかもしれない。いわゆる「2024年問題」で、政府は物流の見直しを図っている。その流れの一環で、送料無料が問題視されているわけだが、本当になくなるのか。
「送料無料」はなくならない
ゴマかすカネは少ないに越したことがないので、販売会社と大手宅配会は物流コストを限界までケチっていく。しかし、自社の利益は確保しないといけない。そうなると弱い下請けを買い叩くしかない。物流業界は多重請負なので大手から仕事を請け負う中小、そこからさらに仕事をもらう個人へと「搾取」の連鎖が起きているのだ。
これは今回、政府が「送料無料」表示の見直しを掲げた理由の一つだ。
お客様という「強者」に対して、送料無料という不可能なサービスを提供するため、物流業界には「弱い者たちが夕暮れ、さらに弱い者を叩く」というザ・ブルーハーツの歌詞にあるようなイジメの構造があるので、まずはこの表現をなくすことで、強者の意識を変えさせようというワケだ。
ただ、残念ながらこれはうまくいかないだろう。
なぜかというと、日本の消費者は100年以上前から、「モノを買ったらタダで運んでくれるのが当たり前」という価値観に支配されているからだ。ちょっとやそっと呼び方を変えたくらいで、この「呪い」から解放されることはない。それがよく分かるのが、百貨店だ。
送料無料という話になると、Amazonや楽天などの大手プラットフォームやECサイトが急成長をしたことで、社会に定着したと誤解をしている人も多いが、それは大きな間違いだ。実は送料無料のルーツは、明治時代の百貨店の「無料配達」にある。
『デパートの無料配送は、日露戦争(明治三十七年)ごろから始まったという。いまや、デパートの営業とは切り離せない伝統的な商習慣になっている。「デパートの販売行為は、お客様のお宅に商品をお届けして初めて完了する」という意見が圧倒的なのも歴史的に見れば当然』(読売新聞 1974年6月17日)
令和日本でネットでポチる人たちが「送料無料が当たり前だろ」と思っていたように、明治日本のデパートで買い物をした人たちも「無料配達が当たり前だろ」と思っていたというワケだ。
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