メドレー社長に聞く 上場後もCAGR40%超を継続する「一発逆転を狙わない経営」:新連載「CEOの意志」(1/4 ページ)
新連載の第1回目は、テクノロジーを活用した事業やプロジェクトを通じて「納得できる医療」の実現を目指すメドレーの瀧口浩平社長。上場後もCAGR40%超を継続してきた秘密に迫る。
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新連載:対談企画「CEOの意志」
上場後のスタートアップの資金調達や成長支援を行うグロース・キャピタルの嶺井政人CEOが、現在活躍するCEOと対談。その企業の成長の歴史や、CEOに求められることを探る。
上場スタートアップの経営者は、いかにして上場までたどり着き、その後の成長を実現してきたのか。そのプロセスは千差万別だ。そして、どの程度の中期目標を掲げ、どんな期間で達成してきたのかは、CEOの意志による。
新連載では、上場後のスタートアップの資金調達や成長支援を手掛けるグロース・キャピタルの嶺井政人CEOが、現在活躍する上場スタートアップのCEOと対談し、その企業の成長の歴史や、CEOに求められることを探る。
第1回は、テクノロジーを活用した事業やプロジェクトを通じて「納得できる医療」の実現を目指すメドレーの瀧口浩平社長を取り上げる。
同社は日本の医療福祉業界で事業所と従事者のマッチングを手掛ける人材採用システム「ジョブメドレー」の運営や、全国の診療所や大学病院などで導入されているオンライン診療支援システム「CLINICS」などを展開中だ。
瀧口社長は2009年にメドレーを創業。19年に東証マザーズに上場し、22年に東証プライム市場にくら替えした。同年、米国法人をつくり最初のオフィスをワシントン州に置いている。
14年の資金調達時にベンチャーキャピタルに提出した事業計画の売り上げ目標を一度も外さず、上場後もCAGR(年平均成長率)40%超を継続中だ。
メドレーの組織づくりの要点や強みはどこにあるのか。前編では、スタートアップから連続的な成長をし続けた要因に迫り、10年後も残る事業をいかにして見極めるかを探る。
瀧口 浩平(たきぐち こうへい)メドレー代表取締役社長CEO。1984年東京都生まれ。02年米国法人Gemeinschaft,Inc.を創業。国内外の事業会社および調査会社・コンサルティング会社の依頼を受けての市場調査/統計調査、新商品のコンセプト開発や市場参入の支援に携わる。個人的な医療体験から医療への課題意識を強め、事業譲渡後、09年6月メドレーを創業
医療ヘルスケア領域のデジタル活用が風穴
嶺井氏: まずは、医療業界という肥沃(ひよく)でありつつも、参入障壁の高い領域で起業した理由と、これまでの歩みを教えていただけますか?
瀧口氏: 創業のきっかけは個人的な医療体験が重なり、身近な人が医療の選択で後悔することをなくしたいと思ったからです。当時の医療業界は、医療機器や医薬品に高度なテクノロジーを利用している半面、インターネットを始めとした情報技術の活用では極端に遅れていました。
そこで、医療ヘルスケア分野のデジタル活用を推進し、医療のポテンシャルを引き出す企業として当社を立ち上げました。医療機関の経営者らは解決したい課題として、採用や人事面の課題を多く挙げていました。特に地方に人材採用のソリューションが少ないことや採用費用の負担が厳しいという課題を解決すべきと考え、「ジョブメドレー」というインターネットサービスを作りました。
ジョブメドレーがPMF(プロダクトマーケットフィット:顧客が満足する商品を最適な市場で提供できている状態)をして、KPIを伸ばせるようになったタイミングで、次は医療機関と患者の間にもプラットフォームを作ろうと考え、その入り口として15年にオンライン医療事典「MEDLEY」というサービスを立ち上げました。これは創業動機でもある「医療の選択」を支援するものです。
オンライン診療に関しては、その年に厚生労働省から緩和のきっかけとなる遠隔診療に関する解釈が示されました。「初診や急性期は原則対面として医師の裁量でオンライン診療を組み合わせてよい。離島、へき地に限らない」というものでした。これをきっかけに社内に当時いた10人ほどの医師らと一緒に協議を始めました。社内の医師らから「こういう使い方ができたら患者にとってよいはず」という意見が数々出ているのを見て、特定の診療科に限定せずに、医療機関がさまざまに利用できるサービスを考えました。
オンライン診療が長期で普及するであろうことに疑いはありませんでしたが、短期的な市場規模は小さく、どの程度のスピードで市場が広がるかは未知数でした。そこで、市場の定義を「オンライン診療市場」ではなく、医療システム市場全体と見なした上で取り組むことにしました。医療システム市場は、当時の自社の開発力にとって難易度が高いものでしたが、遅かれ早かれやろうとしていた分野だったので、チャレンジすることにしたんです。
嶺井: 21年4月にNTTドコモと業務提携し、CLINICSの共同運営、付加価値の高い医療サービスの提供を目指すと発表しました。どういった背景があり、どのくらいのスピード感で進んだのでしょうか。
瀧口氏: 新型コロナウイルスがはやったとき、オンライン診療が普及していないことで社会から不満が噴出しました。当社はこの領域のトッププレイヤーでしたので、オンライン診療は私たちの実力不足で普及していなかったと言えます。しかしながら、関わるメンバーができる限りの努力を続けてきた数年間だったため、どうすればコロナ禍で早く社会実装につなげられるかを考えました。その中で、未上場時も当社に投資をしてくださっていて、同じ課題感を持っていたNTTドコモからあらためて資本業務提携のご提案をいただきました。
20年11月ころから協議を重ね、半年後には業務提携を発表したので、大企業との業務提携においては、かなりスムーズに進んだという認識でいます。
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