リスキリング施策は「きれいごと化」しがち 本当に効果のある「3つの学び」とは(2/2 ページ)
リスキリングの取り組みが加速しているが、しばしば現実味のない議論もみられる。調査では、本当に効果がある「3つの学び」が
リスキリングはなぜ中高年で難しくなるのか
さて、3つの学び行動を見た。こうして要素分解していくと、抽象度の高い「リスキリング」についてより多くのことを把握できる。例えば、年代別にこれらの行動を見たとき「中高年」のリスキリングがなぜ難しいのかが明確になる。
図3に示した通り、40〜50代においてはリスキリングに関連していた3つの学び特性がいずれも下がっていく傾向が見られた。さらに、3つの学びを促進していた行動・経験としては「学習記録行動」「職場外学習」の2つが特に40〜50代で大きく下がっている。
中高年のリスキリングを課題と感じている企業は、これらの経験を促すことが助けになるだろう。広く手挙げ式のeラーニングを準備し「学んでほしい人が学んでくれない」と嘆くよりも、越境的な業務経験を積極的に中高年にアサインすることや、研修にさまざまな記録ツールを組み合わせるなどの工夫を積み重ねていくことで、中高年のリスキリングはより身近なものになっていくはずだ。
まとめ スキルの「創発」を促進することこそがリスキリングである
リスキリングに関連する「アンラーニング」「ソーシャル・ラーニング」「ラーニング・ブリッジング」という3つの学びを紹介した。過去の学習理論や認知科学などの知見が明らかにしてきたのは、人にワクチンを皮下注射するようにスキルを「注入」するような「学び」のイメージは、端的に誤っているということだ。
リスキリングを支えている学びとは「人を巻き込みながら、知識と経験をつなげ、古いやり方を捨てて新たな実践を生み出していくこと」であった。また、職場外の業務経験や学びの記録といった「環境」が、そうした学習行動を促進していた。むろん重要な要素を全てくみ尽くせているわけではないが、このように要素分解することで、リスキリングとは環境と個人の間に起こる創発的な営みであるということがはっきりと見えてくる。
詰め込み教育がしばしば批判されるように、教育によるインプットにばかり注力しても、職場でのスキル発揮という具体的な「アウトプット」は導かれない。3つの学びのいずれかが欠如している“リスキリング”をいくら施しても、それは教育提供側の自己満足で終わるだろう。
リスキリングを促進したい企業が成すべきは、トレーニングを詰め込んで従業員へスキルを注射することではない。上述のようなスキルと実践の創発のプロセスこそを最大化するように、企業の環境や仕組みを整備していくこと。本コラムは限られたデータしか紹介できていないが、少しでもそうした創発的なリスキリングのヒントになれば幸いである。
小林 祐児
パーソル総合研究所 シンクタンク本部上席主任研究員。NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。
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