BEVが次世代車の“本流”にならない4つの理由 トヨタ「全方位戦略」で考える(3/6 ページ)
トヨタが「ル・マン24時間」に、将来的に水素エンジン(内燃機関)車で参戦する方針を発表し、その試作車を公開。水素エンジン車の投入はトヨタの脱炭素戦略における水素エンジン開発の本気度を示している。
BEV普及2つ目の課題「電力事情」
トヨタが全面BEV化を否定する2つ目の理由は、各国の電力事情にあります。発電源構成比をみると、現時点で日本の8割、中国の7割、米国の6割は化石燃料が占めています。欧州では、水力と原子力で約9割を占めているスイスを筆頭に、太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーと原子力による脱炭素電源化が比較的進んでいますが、他地域ではいまだにCO2(二酸化炭素)を排出する化石燃料燃焼型電源が圧倒的に多いのです。
自動車をいくらBEVで脱炭素化しても、それを動かすための発電段階でのCO2削減に限界があるのなら、他の脱炭素化自動車も検討するのが筋であるというのが、トヨタ全方位戦略の裏にある主張でもあるわけです。
特に日本は東日本大震災以降の原子力発電量激減により、他国以上に化石燃料に頼らざるを得ない特殊な事情もあります。トヨタがわが国の産業界をリードする立場であればこそ、BEV以外の脱炭素カーの開発に注力し続けているのだともいえるでしょう。
昨夏は、電力需給がひっ迫し、東京電力管内に節電要請が出ました。ウクライナ戦争などで原油価格が高騰する中、今夏も同様の状況が想定されます。現状、BEV自体からCO2は出ませんが、その動力源を発電するたびにCO2が排出される状況です。ウクライナ情勢が不透明な上、化石燃料に依存する状況でBEV普及を進めれば、電力需給が一層ひっ迫する可能性もあるのです。
最近は電気代も高騰しており、BEVには不利な状況が続いているように思えますが、経済産業省はBEVユーザーに、夜間に蓄電し、日中に使用するといった使い方を提唱しています。
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