BEVが次世代車の“本流”にならない4つの理由 トヨタ「全方位戦略」で考える(2/6 ページ)
トヨタが「ル・マン24時間」に、将来的に水素エンジン(内燃機関)車で参戦する方針を発表し、その試作車を公開。水素エンジン車の投入はトヨタの脱炭素戦略における水素エンジン開発の本気度を示している。
BEV普及1つ目の課題「充電時間」
トヨタが全面BEV化を否定する1つ目の理由は、フル充電に要する時間の問題です。普通充電で1台を満タンにするのに数時間、1時間350kWh・200Vの急速充電でも30分はかかります。ガソリン車が数分で満タンにできることを考えれば、その所要時間がBEV普及の大きなネックになることは確実です。
ゴーゴーラボ(神奈川県鎌倉市)が運営するEV充電スタンド情報共有サイト「GoGoEV」の調査では、23年6月時点での国内の充電スタンド数は約2万カ所、充電機は約3万3000基ですが、その3分の2以上は普通充電機であり、急速充電機はまだ1万基未満です。早期に国内で大半の自動車がBEVに代われば、急速充電機の設置数が爆発的に増えない限り、慢性的なスタンド大渋滞が想像に難くないのです。
対策としての基本はまず、集合住宅を含め各家庭の駐車場1台に対して、1基の普通充電機の設置です。その上で、外出先で困らないために急速充電スタンドが最低でも今のガソリンスタンド数(約3万カ所)かつ、急速充電の給油機数が1カ所最低5基としても15万基はないと、とても怖くてBEVで遠出はできないでしょう。
仏AFP通信の記事によると、BEV化の先頭をひた走る中国では既にEV充電機が520万基を超えているとのことですが、これは社会主義体制下ゆえ可能な話。中国のような国は世界を見回してもむしろ少ないのが現実なのです。
日本経済新聞の4月19日付けの記事では、英国では充電スタンドが不足しているためにBEVを手放す人が増えているとか。豪州や米国のマサチューセッツ州でも似たような動きがみられるとの話もあるようです。
すなわち、トヨタが示唆する「BEVは脱炭素車のデファクト・スタンダードならず」の視点は的を射たものであり、むしろ現状で急速にBEV化を押し進め過ぎることは、国内のみならず世界的に大きな混乱を招くとすら思えるのです。
BEV普及に経済力の壁 新興国で課題
充電スタンド問題に関連しては、もう1つ重大な視点があります。それは脱炭素問題が世界共通の課題であるとしても、自動車が性急にBEVに取って代われない新興国独自の事情があるという視点です。
仮にBEVの価格が下がり次世代自動車のデファクト・スタンダードになれば、先進国では数年間で各家庭に1基の充電ステーションが整うかもしれませんが、経済的水準の低い新興国での対応は至って難しいのです。トヨタが依然としてハイブリッド車(HV)の新車開発にも注力している背景には、新興国からの将来にわたる根強いHVニーズを想定しているからだともいわれています。
なお、BEVの急速充電を多用すると、車載バッテリーが故障する可能性があるとして、日産自動車は、普通充電を使うよう呼び掛けています。
関連記事
- 欧州の「EV一辺倒」転換 トヨタ社長「現実的な選択」
欧州連合(EU)が一転して、合成燃料「e-fuel」を使用した場合など条件付きでガソリン車を容認する方針を打ち出した。EUでの動きに対して、トヨタ自動車の佐藤恒治社長は記者会見で「現実的な選択」とコメントした。 - 「世界はなぜEV一択なのか」 トヨタ社長に“直球質問”してみた 【回答全文あり】
国内外でガソリン車から電気自動車(バッテリー式電気自動車、BEV)にシフトする動きが進む中、人々に「次世代自動車=EV」という認識が浸透しつつあるように感じる。豊田章男社長に「世界はなぜEV一択なのか」と直球質問した。 - 「急速充電でバッテリー故障」投稿に反響 BEVの正しい充電方法とは? 日産広報に聞いた
電気自動車(EV)を急速充電しすぎたらバッテリーが故障したとする投稿がTwitterで注目を集めている。日産自動車広報にEVの適切な充電方法などを聞いた。 - トヨタはなぜ新型「クラウン」に燃料電池モデルを投入したのか
トヨタ自動車がセダンタイプの高級車「クラウン」の新型に、水素を燃料とする「燃料電池車」のモデルを投入するとして、注目を集めている。狙いを広報に聞いた。 - 三菱「アウトランダー」、2年連続最も売れたPHEVに 競争激化しても人気の理由
日本自動車販売協会連合会が発表したPHEV部門の国内販売台数で、三菱自動車工業の「アウトランダーPHEV」が2年連続1位に選ばれた。トヨタ「プリウス」「RAV4」などのライバルがいる中、なぜ日本で最も売れたPHEVとなったのか。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.