「ビッグモーター」不正のウラに何があったのか 長年の“不文律”も一因か:高根英幸 「クルマのミライ」(5/6 ページ)
中古車の買取販売大手のビッグモーターが世間を大きく騒がせている。次々に不正が明らかになっているが、なぜこのようなことが起きたのか。中古車販売のビジネスモデルにも問題があって……。
かつて保険修理は板金塗装の中でもおいしい仕事
かつては板金塗装業者にとって、自動車保険利用の修理業務は単価のいい、いわゆる“おいしい仕事”だった。交通事故などで損傷を受けたクルマが入庫して自動車保険を利用して修理するとなると、まず標準作業時間で工賃と部品代を計算した見積書を作成し、それを保険会社に送って納得できるものであれば、了承して修理を開始する、という流れだ。
保険を使わない自費修理の場合、同業他社と価格競争になってしまうため、どうしても利益率は低くなる。ビッグモーターが損保会社からの修理斡旋を積極的に引き受けるようになったのは、そもそも保険修理が利益率の高い仕事だったからだろう。
しかし保険会社も業務の効率化を図る。保険加入者が事故を起こした際、日頃付き合いのあるディーラーや整備工場があればそこへ入庫させるが、特になければ保険会社のほうで修理工場を斡旋するのだ。紹介された工場は、その見返りとして修理費用の減額を強いられることもあるという。
ビッグモーターは修理斡旋の見返りとして自動車保険加入(自賠責保険だけでなく任意保険も含まれているはずだ)の顧客を積極的に回すようにした。そうすることでお互いにメリットが生まれ、より利益を追求するために取り扱い数を増やしていったのだろう。
やがて、より利益を追求しようとビッグモーターは不正請求に手を染めるようになった。しかし損保会社の中には、自動車保険の顧客を減らされるという不安感から強く批判できず、見て見ぬふりをしてきたようだ。
日本のユーザーは保険会社に対して、被災者や被害者の味方というイメージを持っている人も少なくない。しかし筆者はかつて損害保険の取り扱い資格を取得した経験もあるので知っているが、実態は銀行やクレジット会社と同じ金融業を営む一企業でしかない。
保険は単なる金融商品であり、毎年収支を計算し赤字部門は保険料を値上げして回収する。そうしたことを繰り返して、経営しているだけ(厳密に言えば保険料を積み上げて、それを運用して収益を上げている部分もある)だ。
従ってビッグモーターが保険修理で水増し請求を行えば、その保険金支払いは回り回って翌年の保険料上昇という形で自動車保険加入者に課せらせてしまうのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
なぜ「ビッグモーター」で不正が起きたのか レオパレスや大東建託との共通点
テレビCMでお馴染みのビッグモーターの不正が明らかになった。保険金を水増し請求するために、信じられない行為が行われていたわけだが、なぜ「買取台数日本一」の企業が不正を働いたのか。ビッグモーター、レオパレス、大東建託には共通点があって……。
マツダの「CX-5」はどうなるのか 思い切って刷新できない事情
「CX-5」が好調のマツダだが、根深い問題を抱えている。解決策として考えられる3つの選択肢と合わせて見ていこう。
なぜヘッドライトがまぶしく感じるクルマが増えているのか
夜間、クルマを走らせていて、対向車や後続車のヘッドライトがまぶしく感じることがある。その原因はどこにあるのか。大きくわけて3つあって……。
なぜSUVは売れているのか 「しばらく人気が続く」これだけの理由
街中でSUVをよく見かけるようになった。各社からさまざまなクルマが登場しているが、なぜ人気を集めているのだろうか。EV全盛時代になっても、SUV人気は続くのだろうか。
マツダCX-60は3.3Lもあるのに、なぜ驚異の燃費を叩き出すのか
マツダCX-60の販売状況が、なかなか好調のようだ。人気が高いのはディーゼルのマイルドハイブリッドと純ディーゼルで、どちらも3.3Lの直列6気筒エンジンを搭載している。それにしても、3.3Lもあるのに、なぜ燃費がよいのだろうか。
