中国製BEVは今後どうなるか 避けられない現実:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
深刻なバブル崩壊を迎えている中国では、2022年にBEVへの補助金が終了した。今後BEVを生産するメーカーの行方は。
建設業が飛躍的に伸びた中国
この件を考えるにあたって非常に参考になるのは製鉄業である。中国は2000年前後からの経済発展に伴い、建設業が飛躍的に伸びた。ここで好景気に沸いたのが製鉄業である。
図は経済産業省による「中国粗鋼生産量と世界生産量に占める割合の推移」である。鉄が売れるとなった途端、猫も杓子も参入する。そしてあっという間に過剰生産に至って、叩き売りに入る。グラフを見ればそれが一目で分かる。先進諸国の製鉄業社はこれに巻き込まれて、破壊的打撃を受ける。リスクを顧みないアニマルスピリットが、業種そのものを殺す。
当然、チャンスと見ての他業種からの参入で、いきなりトップクオリティのものがつくれるはずもなく、並品の粗鋼が乱造され、叩き売りの結果どんどん会社が潰れていく。それが中国のアニマルスピリットの形である。
現実に、7月8日ごろ、各紙が一斉に伝えたニュースをご記憶の方も多いだろう。中国自動車工業協会は「BEVの異常な価格設定を回避する合意」を発表した。つまり安売りをするともうからないからカルテルを結んで価格を談合しましょうという決定である。これを自動車工業協会が発表することにはあきれるばかりだが、当然世間の風向きは厳しく、この国ぐるみのカルテルはわずか2日後の10日に撤回されることとなった。
製鉄業の流れが分かっていれば、何が起こっているか明白で、猫も杓子も参入した結果BEVが過剰生産に陥り、投げ売りするしかなくなった。その叩き売りがまともに商売をしているメーカーの新車にまで普及したので、国が力づくで止めに入ったのが、「異常価格の回避合意」である。
しかも国や地方から、台数目標達成へのインセンティブが支払われていたため、売れ行き見込みにかかわらず、つくるだけつくって野積みにしていた会社も多くある。新奇性が求められるBEVでは、昨年のモデルというだけでもう売れない。そんなときにアニマルスピリットを発揮するのは、自殺行為以外の何者でもない。
関連記事
- マツダの「CX-5」はどうなるのか 思い切って刷新できない事情
「CX-5」が好調のマツダだが、根深い問題を抱えている。解決策として考えられる3つの選択肢と合わせて見ていこう。 - なぜヘッドライトがまぶしく感じるクルマが増えているのか
夜間、クルマを走らせていて、対向車や後続車のヘッドライトがまぶしく感じることがある。その原因はどこにあるのか。大きくわけて3つあって……。 - 中国の自動車産業は覇権を握るのか
なぜ中国の自動車メーカーの勢いは止まらないのか。中国や世界経済を取り巻く状況と合わせて見ていこう。 - なぜSUVは売れているのか 「しばらく人気が続く」これだけの理由
街中でSUVをよく見かけるようになった。各社からさまざまなクルマが登場しているが、なぜ人気を集めているのだろうか。EV全盛時代になっても、SUV人気は続くのだろうか。 - なぜ人は「激安タイヤ」を買うのか アジアンタイヤの存在感が高まるリスク
アジアンタイヤが日本で存在感を増している。大きな理由として「安い」ことが挙げられる。しかし、本当にそれでいいのかというと……。 - なぜ「プリウス」が標的にされるのか 不名誉な呼び名が浸透している背景
トヨタのプリウスをネットで検索すると、批判的なコメントが多い。ドライブレコーダーの交通事故や暴走ドライバーの動画を目にすることが多いが、なぜプリウスは標的にされるのか。背景を探っていくと……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.