早期退職=福利厚生!? 中高年社員の大リストラ時代に備えるべきこと:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
シャープが早期退職制度を拡大、管理職だけでなく、55歳以上であれば一般社員まで対象として早期退職を募ることが報道されました。「早期退職制度=キャリア支援の福利厚生」との説明もありましたが、その真意は何なのか。中高年社員の大リストラ時代、何を備えるべきなのか。河合薫氏が解説します。
ついに、予想した通り“魔の手”が一般社員にまで及ぶことになりました。
お盆明けの8月18日、シャープが管理職向けに導入した早期退職制度を拡大し、9月から55歳以上の一般社員にまで対象を広げると報じられたのです。
シャープが早期退職を制度化したのは、わずか4カ月前の4月です。当初の対象は、55歳以上の管理職約700人。大企業が実施する“大型の早期退職”は数年前から相次いでいましたが、シャープの発表がSNS上でにぎわいを見せた理由は「割増金の少なさ」です。
大企業の場合、割増退職金の相場は「24カ月程度」とされていますが、シャープのそれはわずか6カ月分。最大6カ月分。相場の4分の1です。これに対し「少なっ!」「ケチ!」「これじゃやめない方が絶対に得!」「何がなんでもしがみつくべし!」といった意見が相次ぎました。
「早期退職制度=キャリア支援の福利厚生」ってホント?
これはシャープに限った話ではありませんが「ただのリストラ」を早期退職やら希望退職やらと呼ぶこと自体が狡猾ですし、割増額の相場なるものがあることにも、なんだかなぁと率直に思います。それでもやはり6カ月分は……少ない。
「早期退職しました!」→「新しい仕事始めました!」→「幸せ〜!」となるほど世の中甘くありません。下手すりゃ100歳まで生きる可能性もあるわけですから、誰だって慎重になります。下手すりゃとは申し訳ない。でも、やっぱり下手すりゃと言いたくなるのです。
いずれにせよ、4月の段階で「このまま=6カ月分だとやめる人がいなくて、年齢引き下げになる」ことは容易に想像できました。
そして、今回。その予想通り「55歳以上かつ勤続10年以上の一般社員」まで対象を広げ、9月から「ネクストキャリア支援制度」を実施すると発表。割増額も大幅アップの「12カ月分」と、2倍になりました。さらに「ネクストキャリア支援制度」は60歳以上の再雇用社員も対象で、特別慰労金を支給するとか。
管理職だけを対象にした4月、同社は「(早期退職制度を設置は)人員削減が目的ではなく、社員の次のステップを支援するため」と説明していましたが、今回は「自律的なキャリア形成を支援する福利厚生だ」と説明しています。
思い起こせば希望退職の嵐が吹き荒れた2020年、ファミリーマートが40歳以上の社員を対象に800人の退職者を募集したところ1111人が応募し、そのうち「86人は業務継続に影響がある」として、制度を利用した退職を認めず引き留めたという、唖然(あぜん)とするニュースがありました。
企業によってはどの社員に退いてほしいかをあげた“リストラリスト”なるものがあることくらい誰だって予想がつきますが、企業側がそれを暗に認めるようなコメントをするとはあまりに露骨です。
また、企業が好んで使う「次のステップを支援」だの「自律的なキャリア形成を支援」だのというフレーズも「あとは自己責任でよろしく!」と同義です。
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