“東芝の念願”TOBが新たな苦難の始まりになる理由(3/3 ページ)
日本産業パートナーズ(JIP)などによるTOBが始まり、上場廃止に向けて動き出した東芝。世間を震撼させた不正会計発覚から8年。上場廃止を選ばざるを得なくなった一連の経緯に加え、TOBの行方と今後の見通しを考察する。
一部株主から「TOB価格が安すぎる」との声
今回のTOBに関して東芝サイドの思惑は、株主として登場以来苦しめられてきたアクティビストの排除に尽きます。不正会計発覚から8年、アクティビストの登場から6年。経営陣の提案はことごとく否定され、高い配当要求に応えるために事業の切り売りを強いられるなどしてきました。自らの意思で前向きな経営することすらままならず沈下していく東芝にとって、解体を免れるべくこの状況から脱却し経営の主導権を取り戻すラストチャンスとも映ります。
TOBが成立するには、議決権ベースで3分の2以上の株式取得が必要になります。今回のTOB価格4620円は、当初22年9月時点でJIPが掲げていた5200〜5500円を2割近く下回る価格です。これは度重なる業績の下方修正もありやむを得ない判断であったわけですが、この価格で果たしてうるさ型のアクティビストを向こうに回してのTOBは成立するのか、という点が気になるところです。
8月7日付の読売新聞の記事によれば、一部株主からは「TOB価格が安すぎる」との声も上がっているようですが、カギを握るアクティビストたちの当初の取得価格は2628円(後の株式併合を加味)であり、今回の価格でも十分な収益が出る水準ではあります。
かつ出資を受けているファンドの立場からすれば、東芝の増資に応じてから既に6年が経過し出資者からのキャッシュアウトを迫る声の高まりもあろうかと思われ、現状手詰まり感のある東芝に対して更にTOB応募を見送るリスクの方が大きいと判断して、本TOBには応じるのではないかとみています。
成長事業売却済み 力不足感否めず
ではTOBを成立させた後の東芝に、バラ色の未来が待っているのでしょうか。東芝はリーマンショック前の08年3月期に、連結売上高でピークとなる3兆3616億円を計上していました。それが前述のリーマン以降の迷走に次ぐ迷走で、その後15年間で実に6割減という縮小均衡に陥っています。
しかも不正会計発覚以降においては、アクティビストからの配当要求圧力もあり半導体メモリーや医療機器などの成長分野事業の売却・放出を余儀なくされており、成長エンジン的にも力不足の感が否めないのです。
今回JIPと共に26社の名だたる国内企業が、TOBチームへの出資を決めています。3000億円を出資するロームは「半導体事業の協業・連携に関心がある」、500億円の出資を決めた日本特殊陶業は「モビリティや環境・エネルギーでの連携に期待」と、各社のコメントからはそれなりの期待感が伺えます。
しかしこの出資先集めに関しては、何とかジャパン連合でのTOBを実現させたい東芝と、メインバンク三井住友銀行が奔走し説得を重ねた結果と言われており、コメントは自社株主への釈明メッセージにも思えるところです。
財務面にも不安要素
事業面に加えて不安要素と言えるのが、財務面の負担です。JIPはTOB総額2兆円のうち約1.4兆円を借り入れで賄う計画です(読売新聞2月7日付記事)。買収完了後、TOB受け皿会社と東芝は合併、一体化される予定であり、1.4兆円はそのまま東芝の負債に置き換わるのです。事業の切り売りによって成長材料に不足感がある中で、ここでまた大きな返済負担を負う東芝に明るい未来は見えにくいというのが、偽らざるところなのではないでしょうか。
借り入れに際しての銀行とのコベナンツ(財務制限条項)では、業績が一定条件に届かない場合には業務改善計画策定の名の下で、更なる事業の切り売り等による財務改善を求められる可能性もあるわけです。最悪では一括返済を求められる可能性もあり、そうなればまさしく解体ショーとなり、東芝そのものが影も形もなくなってしまうことまであり得るのです。
救世主転じて諸悪の根源となってしまったアクティビストを追い出すためのTOBは、東芝の明るい未来への再出発ではなく、新たな苦難の始まりであると思えるところです。
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