“東芝の念願”TOBが新たな苦難の始まりになる理由(2/3 ページ)
日本産業パートナーズ(JIP)などによるTOBが始まり、上場廃止に向けて動き出した東芝。世間を震撼させた不正会計発覚から8年。上場廃止を選ばざるを得なくなった一連の経緯に加え、TOBの行方と今後の見通しを考察する。
迷走劇最大の原因「アクティビスト」
東芝凋落の端緒が問題先送りの不正会計であるならば、今回の上場廃止に至った最大のターニングポイントは、16年3月期決算で再び9656億円の巨額赤字を計上して債務超過に陥った際の対応にあったといえます。
この折の巨額赤字は、米子会社ウエスチングハウスの倒産によるものですが、東芝は翌17年3月期決算で2期連続債務超過による上場廃止を避けようと、最悪の選択をすることになります。それが、複数のアクティビスト(物言う株主)たちを含んだ海外ファンドを引き受け手とした、6000億円の第三者割当増資だったのです。
この第三者割当増資こそが、現在にまで続く東芝の迷走劇の最大の原因であるといえます。果たして、国内で増資引き受け手の無い状況下で、無理やり6000億円もの調達をしてまで上場維持をする必要があったのか否か。不正会計に手を染めた経営陣は論外としても、リーマンショック時と米子会社倒産時と2度にわたる抜本改革の好機がありながら問題先送りを続け、さらには無謀な増資が先々大きなツケを払うことになるという想像力の乏しさといい、東芝経営陣の経営感覚の鈍さには今更ながらにあきれるところです。
このような過程でアクティビストたちを自ら招き入れた後の東芝は、彼らに翻弄され続けます。アクティブストが株主参入する目的はいかにしてより短い期間でより多くのリターンを得るか、それに尽きます。東芝の株主になったアクティビストたちは、当然のようにさまざまな形で経営に口出しをするようになったのです。
銀行出身の社長で立て直し図るも迷走続き
18年に社長に就任した、銀行出身の車谷暢昭氏は、アクティビストからの厳しい経営改善と配当要求などを受けて、白物家電およびパソコン部門の売却と約7000人の人員削減を断行します。結果、業績回復を果たし、東証一部への返り咲きを実現させますが、ここまでが銀行出身者の限界でした。成長戦略を描くには至らず株価は低迷を続け、アクティビストの攻勢が強まって東芝の迷走は混迷に向かうのです。
車谷氏は株主総会での信任が危うくなったことで経済産業省を巻き込んでの株主工作が問題化し、苦し紛れに持ち出した策がファンドによるTOBを活用しての上場廃止策でした。車谷氏が突如持ち出したこの奇策。TOB成立後のスイープアウトによってアクティビストを追い出そうというもくろみだったものの、当のファンドが車谷氏の関係先であったために社内で即刻却下となり、車谷氏が実質解任されるというオチが付きました。
車谷氏のやり方の良し悪しは置いておくとして、東芝サイドがこの時初めてTOBによる「上場廃止」という新たな選択肢を提示したということが、短期的キャピタルゲイン重視のアクティビストにとって、「東芝が売り物である」という新たな意識を植え付ける転換点になったことは間違いありません。それ故に、アクティビストはこの騒動の後に東芝が生き残りを賭けてひねり出した事業分割案すらもあっさり否決。今般の非公開化案に突き進む道筋を作ったともいえるのです。
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