「物言う株主」と対立のセブン&アイ コンビニとスーパーの「二刀流」を選んだ理由:株主はコンビニ注力要求(1/4 ページ)
事業の方向性を巡り、米投資会社バリューアクト・キャピタル・マネジメントと「セブン&アイ」経営陣の対立が深まっている。セブン&アイはなぜコンビニとスーパーの「二刀流」を選んだのか。
「イトーヨーカドーを分割しセブンイレブンに注力すべきだ」──。以前からそう主張してきた米投資会社バリューアクト・キャピタル・マネジメント(以下バリューアクト)の「セブン&アイ現社長退任案」は、5月25日の株主総会で否決された。しかし、これで終わりではない。両者の対立は、より深まっている。
株主総会に先立ち、セブン&アイが公表したバリューアクトについての見解は、辛辣(しんらつ)なものだった。
「バリューアクトは、セブン&アイの事業に対する『長期的』な関心が無い。関心があるのは、『短期的』な株価上昇だけです」(バリューアクトによる4月20日レターに対する当社取締役会の見解 要約)
バリューアクトも負けてない。
「失望を表明いたします」(バリューアクト4月27日書簡)
「短期的」と断じられたバリューアクトだが、彼らにその自覚は無い。Webサイトのトップページには、以下のキャッチコピーが記されている。
「私たちは『長期的』に投資します」(We invest for the long term)
5年? 15年? 異なる「長期」の認識
「長期」とは何年だろうか。1年? 3年? 恐らく「5年」程度だ。みずほ証券の調査によると、バリューアクトの株式保有期間は3〜5年とされている。
では、セブン&アイにとって長期とは何年だろうか。恐らく「15年」だ。セブンイレブンのフランチャイズ契約期間が15年。このサイクルで長期戦略を考案するはず。経営者の時間軸は投資家のそれよりはるかに長い。
「5年」対「15年」。「短期」対「長期」。当然、選ぶ戦略は異なる。短期では正しくても、長期では間違いとなることもある。今回の株主総会は、時間軸が異なる両者の主張のぶつかり合いだった。
悪印象のアクティビスト
株主至上主義の米国でも、バリューアクトのような「物言う株主(アクティビスト)」を批判的に見る人は少なくない。
2016年の大統領候補だったヒラリー・クリントン氏は、アクティビストを「短期利益を目当てに、相手にダメージを与え責任を取らず逃げる(ひき逃げ)アクティビスト」と表現するなど手厳しい。
トランプ前大統領は、「コロナウイルス支援法(CARES)」において、アクティビストを利する「自社株買い(※)」を制限し、「自社株買いは望まない。何の役にも立たないからだ」と述べたという(ロイター通信の報道)
【自社株買い 企業が、過去に発行した自社の株式を、株主から買い戻すこと。発行価格ではなく市価+プレミアム(上乗せ)で購入したり、発行株数が減り1株あたりの純利益が増えたりするため、株主にとって利益となることが多い】
かつては、日本での評判も芳しくなかった。最も印象を悪化させたのは、07年にブルドックソース買収を仕掛けた「スティールパートナーズ」だろう。
証券アナリスト菊地正俊氏の著書「アクティビストの衝撃」(中央経済社)によると、ブルドックソースの社長から「ソースが何から作られているか知っているか」と問われたスティールパートナーズ代表者は、
「私はソースが嫌いだからよく分からない」
「水だ。想像するに水が相当入っていると思う」
と答え、国内投資家をあぜんとさせたという。さらには
「自ら経営を行う意図はない」
「日本の経営者や株主を教育したい」
などと述べ、「『物言う株主』とは、事業内容を理解しない傲慢(ごうまん)な人たち」という印象を定着させてしまった。
そんなアクティビストの印象を変えたのは政治だった。第2次安倍政権下、欧米と比べ低い利益率(ROE=利益÷株主資本)を改善するため、二つの指針が定められる。粗く要約すると以下のようなものだ。
「投資家は、企業に対し説明を求めること」(スチュワードシップ・コード)
「企業経営者は、投資家の話を聞くこと」(コーポレートガバナンス・コード)
この二つの指針は、アクティビストに、「物言い」のお墨付きを与え、成長しない企業・成長が遅い企業の「尻を叩く」役割を担わせた。以降、「株主提案」が一気に増加。ROEが8.2%(14年)から9.7%(21年)に改善。ビジネス番組が「アクティビストは企業活性化の起爆剤」と、もてはやす。
今回の、バリューアクトの提案に賛同する一般投資家も少なくない。内容を詳しく見てみよう。
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