「物言う株主」と対立のセブン&アイ コンビニとスーパーの「二刀流」を選んだ理由:株主はコンビニ注力要求(2/4 ページ)
事業の方向性を巡り、米投資会社バリューアクト・キャピタル・マネジメントと「セブン&アイ」経営陣の対立が深まっている。セブン&アイはなぜコンビニとスーパーの「二刀流」を選んだのか。
バリューアクトの「提案」
「イトーヨーカドーを分割しセブンイレブンに注力すべき」。これが、バリューアクトの提案である。実行すれば、6年後の株価が2.5倍以上(6000円弱→1万7000円弱)になる、という。決算書がそれを裏付ける。
セブン&アイの2023年2月期決算値では、イトーヨーカドーなどスーパーストア事業の利益率(営業利益÷売上高)は「0.86%」。対する、国内コンビニエンスストア事業(セブン・イレブン・ジャパン)は「26.06%」。差は歴然だ。
儲からないコンビニ
「だったら、スーパーなんてやめてしまえばいいのに」。そう考えるのはもっともだ。だが、ちょっと待ってほしい。同じ「小売」なのに、なぜこうも利益率が異なるのか? 商品単価が高いから?営業時間が長いから? いや違う。
理由は「ある費用が、イトーヨーカドーでは発生するのに、セブンイレブンでは発生しないから」。
ある費用とは、総菜の加工費、従業員の教育訓練費などだ。これらの多くは、セブンイレブン(フランチャイズ本部)ではなく、加盟店(フランチャイジー)が負担している。
例えば、アメリカンドッグなどの加工費だ。イトーヨーカドーの場合、解凍する、揚げる、器にのせる、などの加工費が発生する。
これに対し、セブンイレブン(フランチャイズ本部)では、発生しない。加盟店で加工するからだ。これら加工の手間を考慮すると、「ファストフードはほとんど赤字」と試算する加盟店オーナーもいる。
教育訓練費の負担も大きい。コンビニ従業員の業務は、スーパーより広範にわたる。宅配便を受け付ける。コピー機のつまりを直す。コロッケを揚げる。高齢客にスマホの使い方を教えることすらある。コンビニ従業員は、製造業でいう「多能工」だ。育成に時間がかかるし、その時間にも給料が発生する。
これら費用を含めて計算した、コンビニ加盟店の利益率は、約「3%」(公正取引委員会 実態調査報告書より算出)。上述したイトーヨーカドー(スーパーストア事業)の利益率「0.86%」に近づく。つまり、セブンイレブンの全店舗を直営に切り替えたら、利益は大幅に減る。「コンビニは(バリューアクトが期待するほどは)儲からない」ということになる。
フランチャイズは「人の褌(ふんどし)で相撲を取る」ビジネスモデルだ。本来、セブン・イレブン・ジャパン(本部)が負担すべき費用を、別事業者である加盟店(フランチャイジー)が負担しているところに、このビジネスモデルのいびつさがある。
このいびつさは、人手不足、ひいては加盟店オーナーのなり手不足を招く。
関連記事
- ソニーの「着るエアコン」“バカ売れ” 猛暑追い風に「想定以上で推移」
連日の猛暑が続く中、ソニーグループ(ソニーG)が4月に発売した、充電式の冷温デバイス「REON POCKET 3」(レオンポケット3)の売れ行きが好調だ。同製品は「着るエアコン」とも呼ばれており、ビジネスパーソンを中心に売り上げを伸ばしている。 - ファミマの「生コッペパン」1000万食突破 ヒットの要因は“古臭さ”払拭にあり
ファミリーマートが手掛ける「生コッペパン」シリーズの販売が好調だ。同社によると、2月末の発売から20日間で1000万食を突破。なぜ、生コッペパンシリーズを商品化したのか。経緯とヒットの理由を同社広報に聞いた。 - 「ロッテリア」はどこでしくじったのか 売却に至った3つの理由
「ロッテリア」のゼンショーHDへの売却が決まった。背景には大きく3つの要因が考えられる。他社の動向とともに考察する。 - 東芝はどこでしくじったのか 上場廃止と「物言う株主」排除が意味すること
東芝が日本産業パートナーズからの買収提案を受け入れ、上場廃止に向けて動き出した。かつては日本を代表する企業だった同社は、一体どこでしくじったのか。中小企業診断士の視点で検証する。 - 「生クリーム好き歓喜」──セブンイレブンの“具なし”「ホイップだけサンド」に反響 商品化の狙いは? 広報に聞いた
セブン-イレブン・ジャパンが10月12日から近畿エリアなど地域限定で販売を始めた「ホイップだけサンド」シリーズがTwitterで話題となっている。商品名の通り、ホイップクリームのみを挟んだ“具なしサンドイッチ”となっている。商品化の経緯を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.