パン店の試食客が2倍に ユニークな「仕掛け」が小売DXに必要なワケ:「小売DXと仕掛学」前編(2/3 ページ)
人々の好奇心をくすぐる工夫で行動変容を促す「仕掛け」を小売業と組み合わせると、どんな化学反応が起きるのだろうか――。仕掛学の第一人者、松村真宏・大阪大大学院教授と小売業のDXに詳しい郡司昇氏が対談した。
小売業DXが失敗する世界共通の原因は?
松村: ほかにも、コロナ禍前の2018年に大阪大学医学部付属病院で行った実験があります。当時、病院に来て手を消毒する人は来院者の0.6%と、ほとんどいませんでした。
そこで、口の中にアルコール消毒器を仕込んだ「真実の口」を作りました(冒頭1枚目の写真)。手を入れるとアルコール消毒液が噴射されます。設置直後は来院者の3〜4割が利用してくれて、行列ができるほどでした。2カ月半後に測ったときでも10.3%の人が使ってくれたので、すごく効果があり、話題にもなりました。
仕掛けは、あるものを作って人の行動を変える。行動を変えることで問題解決するというアプローチを取るものです。公平性、誘引性、目的の二重性――の3つの要件を満たしたものが仕掛けになります。
小売業DXが失敗する世界共通の原因は?
郡司: 今回は「仕掛学で生み出すテクノロジーと人間の相互補強」というテーマで、トピックを3つ用意しています。1つ目は「小売業DXにおける大きな誤りとは」という話です。
私は年に1〜2回、DX事例の視察で米国や中国に行くのですが、どの国に行っても失敗事例というのは、「手段」から入っていることがすごく多いです。
数年前に話題になった無人店舗。これは4年ほど前に中国で撮った写真です。中国では8年ぐらい前から無人店舗がすごくはやり、500店舗ぐらいが一気に広がったのですが、半年ほどでダメになり、500店舗全部を閉めちゃったんですね。
この写真は辛うじて残っていた店舗を撮ったものですが、コンテナの中にコンビニで売っているような商品が並んでいて、セルフレジで決済するという、ただそれだけの仕組みですが、誰も利用しないわけです。
だって、無人店舗だからお客さんがお店に来るわけではなくて、お店の商品が欲しいとか、魅力的なものがあるから来るわけです。どこにでも売っているものだけが並んでいても、何も価値がない。これは世界共通のことです。
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