リスキリング実施で「失業手当」給付の前倒し 社労士が語る実態とリスク:迷走気味の政府(2/3 ページ)
リスキリングの実施有無で、自己都合による「失業手当」給付の前倒しが可能になる――そんな提案を国がしています。果たして現実的でしょうか? 実態とリスクについて、社会保険労務士の筆者が解説します。
リスキリングで失業手当給付が前倒しに
リスキリングが浸透しないことに対する焦りもあるのでしょうか。政府は5月、次のような施策を発表しました。
失業給付(手当)に関し自己都合の離職でも申請前の学び直しを条件に、支給開始を現行の2カ月以上から7日程度に短縮する(詳細は6月末に策定される政府の労働市場改革の指針で公表)。
失業手当は、会社を辞めて次の就職先が決まらない人が受け取れるお金です。1日当たりの支給額は、退職前の給与日額のおよそ50〜80%(60〜64歳は45〜80%)で、退職前6カ月間の給料の総額(残業代は含む。賞与は除く)と退職時の年齢によって決まります。
また受給できる期間は、本人の年齢や雇用保険を支払っていた期間などによって変わります。会社を辞め、定期的な収入がなくなった人には心強い制度ですが、解雇や会社倒産などの会社都合と言われるものではなく、自発的に退職した場合は2カ月程度の待機期間があります。
つまり2カ月程度、無収入になってしまうのです。現在の仕事が合わず心身ともに辛い状況にあってもこのことを考慮すると転職を決心できない人もいるでしょう。あるいは、次の就職先をよく検討せず決めてしまったり、当面の生活費を稼ぐことを目的に派遣社員として登録してその働き方を続けてしまったりする人もいるかと思われます。こうした状況を考慮すると、この制度の発想自体は悪くないと思われます。
クリアすべき問題点もある
当初は6月末に方向性が発表される予定でしたが、それから2カ月経った現在も具体的な内容が公表されていません。検討中なのかもしれませんが、いくつか問題点があるように思われます。
まずリスキリングは、個人でなく企業が主体となってやるものです。人手不足の昨今、転職を促しかねないリスキリングに着手するのに二の足を踏む企業もいるかもしれません。余剰人材を抱え込んでいる大企業以外の企業が積極的に取り組むか疑問です。
また失業手当を受け取る際に「リスキリングに取り組んでいた事実」をどのように証明するのか? という課題があります。外部の研修機関(通信も含む)に通っていたという証明書などが該当するかと思われますが、その費用を会社が負担していた場合・個人が負担していた、どちらの場合でよしとするのか? なども定めなくてはなりません。
さらに、リスキリングに関連した不正が発生するリスクも考えられます。過去にも教育関連の助成金は、受講時間の水増しや架空の受講などが発生していました。今回も同様のことが起こる可能性があるでしょう。
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