ビッグモーターの「降格人事」 もし裁判に発展したら、結果はどうなる?:過去の判例から考える(1/3 ページ)
ビッグモーターの保険金不正請求問題によって、工場長がフロントへの降格処分を受けていることが明らかになりました。仮に彼らが降格処分の妥当性について裁判に踏み切った場合、どのような処分が下されるのでしょうか? 社会保険労務士の筆者が過去の事例をもとに考えてみました。
中古車販売会社ビッグモーターでの保険金の不正請求問題が世間を騒がせました。外部の弁護士で構成された特別調査委員会がまとめた調査報告書によると「不正請求の背景に、降格処分の頻発による工場従業員へのプレッシャーがあった」とありました。具体的には2020年に延べ20人、21年に延べ15人、22年に延べ12人の工場長がフロントへの降格処分を受けていました。
毎月誰かが降格処分を受けるというのは、かなり多い印象です。一方で、降格処分というのはそんなに簡単にできるものか? という疑問もわいてきます。
そこで今回は降格処分の概要やビッグモーターのケースなどを実際の裁判事例も交えながら解説していきます。
そもそも降格処分とは?
降格処分とは、職位(役職)や人事制度上の資格(等級)を低下させることを指します。降格に伴い賃金が減額となるケースがほとんどですから、従業員側にとっては厳しい処分です。なお、降格処分には(1)人事権の行使、(2)懲戒権の行使の2種類があります。
(1)人事権の行使による降格について
組織改編で部長のポスト自体が無くなってしまったため一つ下のポストに下がるケース、営業部長を任せていたがメンバーをまとめられないという理由で役職を解任されるケース、人事制度の中で「人事評価で最低ランクが2期続いたら降格」と定められており、これに該当したので資格(等級)を下げるケースなどが人事権の行使です。
人事権の行使による降格は、人事異動などと同様に事業活動の中で必要なものですから、会社に一定の裁量が認められています。しかしながら、賃金が大幅に下がるケースでは、従業員の生活に与える影響が甚大(じんだい)であるため、権利の濫用とされるケースもあります。
(2)懲戒権の行使による降格について
一方で、セクハラや服務規律違反などを犯した従業員に対するペナルティーとして行うものが懲戒権の行使による降格です。こちらは従業員の過失や不正行為を理由とするため、人事権の行使による降格に比べて、厳格かつ慎重に行うことが求められます。
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