西武池袋ストライキから憂う「賃金が下がり続けた先進国」の未来:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
8月31日、そごう・西武の労働組合が、国内百貨店では61年ぶりのストライキを実施した。昔は珍しいものではなかったストライキが減りゆく間、日本はどのように変わってきたのか。そしてストライキとは何のためにあるのか。河合薫氏が解説します。
私がテレビやラジオのお仕事をメインでやっていた1990年代後半、生放送のスタジオのカメラマンさんや、サブ(副調整室)のディレクターさんたちの平均年齢がぐんと高くなる日がありました。
組合のストライキのため、管理職だけで生放送をオンエアする必要があったのです。
出だしから個人的な話になってしまいましたが、思い起こせばあの頃の日本には、働く人の権利を求める空気がありました。
数こそ減ったものの決してストライキは珍しくなかったし、バブル崩壊でリストラを決行する企業に「このままでいいわけないだろう。私たちは道具じゃないぞ」と正面きって反論するのが当たり前だった。
なのに気がつけば、働く人は沈黙し、声をあげる人を否定したり、バッシングしたりするようになりました。「長いものにはまかれろ」といった空気感で満載です。
メディアが「国内百貨店では、61年ぶり!」と騒ぎ立てた、西武池袋本店でのストライキも例外ではありませんでした。「今回のストライキはイメージ低下になりかねない」「今回のストライキは利用者離れにつながりかねない」――などなど。
まったく、なんなんでしょう、これ。申し訳ないけど、私には意味が分かりませんでした。
むろんテレビお得意の街頭インタビューでは「頑張ってほしいね」という声も散見されましたが、報じる側はどこか他人事。いったいこの国の人たちはどこまで“お人よし”なのか。
“希望退職”という名のリストラ、“非正規”という名の低賃金雇用を容認し、最低賃金をめぐっては「時給1000円超になったら、中小企業がつぶれる」だの「最低賃金の引き上げが経営を圧迫する」だのという主張を、あたかも当然の論調のごとく報じ続けている。
2015年、ノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン博士がニューヨーク・タイムズに寄稿した“Liberals and Wages”で書かれた「最低賃金の上昇が仕事を奪うということに対する証拠は全くない」という結論がグローバルでは常識になっているのに、日本では「企業の経営を心配する声」が後を絶ちません。
働けど働けど「じっと手をみる」状態が続いている日本の現状を考えれば、今回の大手百貨店の勇気ある決断の意義を、もっと認めるべきです。
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