西武池袋ストライキから憂う「賃金が下がり続けた先進国」の未来:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
8月31日、そごう・西武の労働組合が、国内百貨店では61年ぶりのストライキを実施した。昔は珍しいものではなかったストライキが減りゆく間、日本はどのように変わってきたのか。そしてストライキとは何のためにあるのか。河合薫氏が解説します。
ストの減少、賃金の低下
なのに、百貨店の利用者離れ、イメージ低下といった当たり障りのない言葉に身を委ねるメディアの姿勢は多いに疑問だし、残念としかいいようがありません。“お人よし“にも程があります。
と、ここまで書き進めておいてなんですが、ストライキ自体を知らない世代も増えているので、日本のストライキの歴史を簡単に復習しておきます。
下の図表の通り、ストライキなどの労働争議は、高度成長期にあたる1960年代から70年代に春闘の賃上げ交渉が活性化したことで急増し、1974年をピークに減少傾向に転じます。
ストライキの意義は、以下の図をみれば一目瞭然です。ストライキと主要企業の賃上げ率は連動していて、働く人が声をあげ具体的な行動=ストライキに出たからこそ、企業はそれに応えるべく賃上げを実行したのです。
一方で、ストライキの減少とともに賃上げは行われなくなりました。おかげで、日本の賃金は世界最低レベルです。
日本は、この30年間賃金が上がらないどころか下がった唯一の先進国です。最低賃金も最低レベルで、2023年1〜4月の為替相場で各国の最低賃金を比較すると、日本は961円に対し、ドイツ・フランス1386円、イギリス1131円で、日本は韓国の991円よりも低くなっています(日本総研「全国平均1000円超時代の最低賃金の在り方」)。
しかも、コロナ禍以降、米国では2022年には前年同期比で8割増となる270件超のストライキが発生し、欧州各国でも大規模なストライキが相次いでいるのに、日本はいまだに沈黙しているだけ。
そういった意味でも、今回の国内百貨店で61年ぶりのストライキは、「自分たちの権利」について考える絶好の機会だったのに。もったいないとしかいいようがありません。
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