V字回復のサンリオ 「頑張ってもムダ」「挑戦が称賛されない」風土をどう変えたのか:辻社長インタビュー【後編】(2/3 ページ)
長らく業績悪化に直面していたサンリオが、V字回復を見せている。以前は「頑張っても報われない組織風土」「挑戦が称賛される社風でない」風土だったサンリオを、2020年7月に社長に就任した辻朋邦氏はどう変えたのか。
課題解決に向けて
社員アンケートで見えた4つの課題を基に、中期経営計画を定めて組織改革に乗り出した辻社長。経営レベルでは月3回の経営会議を新設した。
「部長クラス以上での議論が活発になったことで、さまざまな課題が見えてきました。プロジェクトの進ちょくを追えるようになったことで、よりタイムリーな施策を打てるようになった点は大きな成果です」
その他、特に意識したのが、反発を事前に防ぎながら現場のモチベーションを高めて改革を進めることだ。取締役や執行役員の若返りを掲げ、外部からの人材を多く登用する中で、プロパー社員も安心・納得できるようにコミュニケーションの機会を増やした。
「数多くの改革をするので、当然現場の業務量も多くなります。これまでにないチャレンジも増えるので、現場のモチベーションを高めないことには話が始まりません。また、社員の一人ひとりが自分ごととして改革を進める必要もあります。そこで、社長対話として社員4人1組とコミュニケーションする機会を設けるなど、情報を徹底的に共有し続けました」
コロナ禍での社長就任ということもあって、外部への挨拶回りする機会が少なかったことも功を奏した。自身のリソースを社内に集中することができたので、1年半ほどをかけてみっちり社員との対話を行った。
年代ごとに社長対話 意外だったベテランの反応
社長対話は社員を20代から60代の年齢ごとに分けて実施。中でも印象に残っているのが、中堅〜ベテラン層との対話だという。
「中堅どころの社員は、新たな外部人材を多く採用することに不安を抱える傾向にありました。これまで自分がやってきたことやポジションが奪われるかもしれないと思うのは、当たり前の感覚です。しかし、経営陣としてそうした『入れ替え』は意図していません。このことは強調しました」
説明の際、野球に例えて話した。社員全員が素晴らしい選手である一方、スラッガーばかりの状況だと伝えた。試合に勝つためにスラッガーは必要不可欠だが、1番から9番まで全員がスラッガーでは勝負にならない。守備が上手な人や足の速い選手、はたまた変化球を投げ分けられるなど、多彩な能力を持つ選手がそろっていてこそチームは強くなる。そうした多様性を取り入れ、さらに組織をよくするのが外部人材を登用する目的だと伝えたところ、大きく納得してもらえたという。
「ベテラン社員との対話も非常に印象深いものでした。それまでは、社内の経験が長ければ長いほど、変化や改革へのハードルが高いのではないかと考えていましたが、実際は全く違ったのです。むしろ皆さんが前向きに改革の話をしてくださり、残りの会社員人生を賭けます、といった意気込みの人も多かったことには驚きました」
関連記事
- サンリオ驚異のV字回復 いかにして「ハローキティ依存」を脱したのか
長らく業績悪化に直面していたサンリオが、V字回復を見せている。その背景には、2020年7月に社長へ就任した辻朋邦氏が主導した組織改革がある。辻社長は、当時のサンリオが抱えていた数多くの課題を、どのように解決に導いたのか。 - ドムドムハンバーガー驚異の復活 風向きを変えた「3つの出来事」
「このままなくなってしまうではないか」と悲観されていた、ドムドムハンバーガーが復活し注目を集めている。最盛期の90年代には全国400店以上にまで拡大したものの、閉店が相次ぎ30店舗以下に。しかし、2020年度から最終黒字に転じて息を吹き返し始めた。その背景には何があったのか──? - ブックオフ、まさかの「V字回復」 本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ?
ブックオフは2000年代前半は積極出店によって大きな成長が続いたものの、10年代に入って以降はメルカリなどオンラインでのリユース事業が成長した影響を受け、業績は停滞していました。しかしながら、10年代の後半から、業績は再び成長を見せ始めています。古書を含む本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ再成長しているのでしょうか。 - 店舗予算は「分かりません」 数字を知らないキャンディ店、社長はどう変えた?
店舗予算は「分かりません」「日々頑張ります」――アメ細工のパフォーマンスで若者から人気を得ている「PAPABUBBLE」だが、経営はアナログで行き当たりばったりだった。そんな中、4月に代表に就任したのは電通やゴンチャジャパンでマーケティングを極めてきた越智大志氏。就任後5カ月で、会社はどう変わったのか。 - 「Kawaii」文化の伝道者、サンリオが好調 世界で売り上げを伸ばすこれだけの理由
サンリオが好調だ。好調の背景には、外国人観光客による売り上げシェアの拡大がある。「Kawaii」文化の伝道者、サンリオが世界で売り上げを伸ばす理由は?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.