V字回復のサンリオ 「頑張ってもムダ」「挑戦が称賛されない」風土をどう変えたのか:辻社長インタビュー【後編】(3/3 ページ)
長らく業績悪化に直面していたサンリオが、V字回復を見せている。以前は「頑張っても報われない組織風土」「挑戦が称賛される社風でない」風土だったサンリオを、2020年7月に社長に就任した辻朋邦氏はどう変えたのか。
「挑戦が称賛される」組織づくり
社員の声を聞きながら、人事や報酬制度にも手を付けた。
これまでも存在した表彰制度を、中期経営計画で設定したビジョン・ミッション・バリューと紐づけた形にアップデート。あいまいだった表彰の定義を見直し、金額も納得感のあるものへと変更した。新たな取り組みとして、定めた6つのバリューを実践しているメンバーの取り組みを募り、月に一度表彰する制度も新設した。
「新たにビジョンやミッション、バリューを作っても、実際に現場の理解が進むまではタイムラグがあるものです。そこで、表彰と結び付けることで浸透を進める狙いがありました」
こうした取り組みが功を奏し、定期的に実施している社員アンケートの数値は改善を見せているという。当初の課題だった「挑戦が称賛される」風土に関しても、大きくポイントが伸びている。
「何よりコロナ禍からの復活を見せている、市場の勢いに乗れたのが大きかったと考えています。改革をする上では、成功体験を積み上げて『この方向性でいいんだ』と社員が感じることが重要です。追い風にしっかり乗って、外部やプロパー社員が一体となって成果を出せていることで、さらにチャレンジしてみようという機運が高まり、よいサイクルが回せています」
自己採点は「80点」 残り20点は人材採用・育成がカギ
業績が苦境に陥る中、V字回復に向けた足場固めと位置付けた中期経営計画は、最終年度を迎えた。これまでの組織改革を振り返り、辻社長は「80点くらい」と評する。
「社員の頑張りを見ていると、本当は『100点!』といいたいくらいです。市場の追い風もあり、売り上げや利益の指標もかなり高い水準に達しています。しかし、ここで驕ってはいけません。最終年度である今年は、社員アンケートのさらなるポイント改善に向けて取り組みを進める考えです」
特に注力するのが人材採用と育成だ。
例えば、新卒採用ではこれまで積極的なアクションをしてこなかった。それでも、キャラクターの人気などから企業認知度が高く、多くの応募が集まっていたという。しかし、これからは戦略に沿った人材を定義し、的確に採用していく必要がある。すでに経営会議で出た課題や戦略に合わせた人材の確保に向けた採用活動を進めており、社長面接を通して手応えも感じているという。
中途採用の活用も進める。ロールモデルとなるような人材を積極的に採用し、若手社員にとって「どの年齢でどのようなスキルが必要になるのか」のガイドになるような仕組みを構築していく。
「われわれはキャラクター企業から脱却し、総合エンターテインメント企業へと進化することを目指しています。そのためには多彩な人材が必要です。成長投資として採用活動や他社との事業提携に注力しながら、Web3やグローバル展開を担うような人材を集めていきます」(辻社長)
本記事では、辻社長へのインタビューを通し、中期経営計画を基にした改革の中から組織風土に焦点を当てて解説した。前編の記事では、サンリオの大きな収益源であるキャラクタービジネスについて「ハローキティ依存」からどのように脱したかにフォーカスしている。ぜひそちらも一読いただきたい。
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