EC化率「45%の中国」と「13%の日本」 3倍超の差がつく納得の理由:がっかりしないDX 小売業の新時代(3/4 ページ)
大手の食品小売業ではここ数年、1万坪級に及ぶネットスーパー専用の大型配送センターを開設する動きが顕著になっています。海外には、ネットスーパー専用の大型センターやEC運営の先行事例があります。国内の小売企業がEC運営を成功させるために、海外の事例から押さえておくべきポイントを探ります。
中国と日本のEC化率に差がある理由
世界でEC化率の高い国といえば中国です。
経産省の「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」報告書によると、22年の中国におけるEC化率は45.3%(日本は12.9%。なお日本の物販BtoCのEC市場は約14兆円でEC化率9.13%)となっています。
これには日本と大きく異なる背景があり、自家用車普及率が低いことと、注文する人間と配送する従業員の貧富の差があります。
急速に車の普及が進む中国ですが、20年末の中国四輪車保有台数は2億7339万台、人口が14億1178万人なので、車1台あたりの人口は5.16人です。これは日本だと1.6人、アメリカは1.1人です。(一般社団法人「日本自動車工業会資料」より)
上海などの都市部では車だらけで渋滞の激しい中国ですが、全土に渡ってそういう状況というわけではありません。日本のように自家用車所有率が都市部で低く、地方で高い状況とは異なります。
日本のように公共交通機関が発達しているわけでなく、自家用車で遠方に買い物に行くことも難しいので、中国では相対的に実店舗よりもECの利便性が高くなります。
クレディ・スイスによると、20年に中国において上位1%の富裕層が持つ富は、全体の30.6%です。一方、中国には平均月収が1000元(約1万8000円)前後の中低所得かそれ以下の人々が6億人暮らしています。
4年前に上海の小売を視察した際に聞いた話ですが、高級スーパーであるフーマーで注文をするのは日本人と同等かそれ以上の所得がある層であり、ピックアップする店員や配送スタッフは月収2万円以下の地方から出稼ぎにきている人が多いとのことです。
30分以内に送料無料で届ける仕組みが成立する背景には、購入者と労働者の貧富の差があるということを頭に入れておく必要があります。日本のように貧富の差が小さな国でビジネスモデルをそのまま真似ることはできません。
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