最低賃金1500円に上げれば解決? “そこじゃない感”が拭い切れないワケ:働き方の見取り図(4/4 ページ)
非正規雇用者が抱える課題は、最低賃金さえ上げれば解決するというものではない――。非正規雇用を形成している各雇用形態の課題とは、どのようなものがあるのか。
ずれたサポートに募る“そこじゃない感”
このように、非正規雇用といってもその内実はさまざまで、雇用形態ごとに全く異なる特徴を有しているのです。すると、当然ながら個々に抱える課題も異なり、その課題解決に必要なサポート内容も変わってきます。
例えば、家庭とのバランスを取りながら融通を利かせて働きたいものの、正規雇用志向の人が少ないパート層に「非正規雇用者はみんな正規雇用になりたいはずだ」と決めつけて正規雇用の求人を勧めても、“そこじゃない感”が生じるだけです。パート層の課題解決には、短時間や短日数、在宅勤務など家庭とのバランスが取りやすい柔軟な勤務条件の仕事を増やす必要があります。
一方で、正規雇用志向が多い契約社員や派遣社員に「非正規雇用者はみんな柔軟な働き方を望んでいるはずだ」と決めつけて、いまの雇用形態のまま契約延長することばかり勧めても、やはり“そこじゃない感”が生じます。有期雇用から無期雇用へ転換させる常用目的紹介や派遣社員を直接雇用へ転換させる紹介予定派遣など、正規雇用につなげるためのサポートをもっと充実させる必要があるのです。
さらに、雇用形態ごとに見られる特徴は、あくまで全体的な傾向に過ぎません。いまパートで働いているからといって、全員が家計補助や家庭との両立が目的だと決めつけるのも危険です。本当は正規雇用を希望しているがかなわず、生活のため仕方なくパート職に就いている可能性もあります。その場合は正規雇用につながるサポートが必要です。
最低賃金の上昇は、非正規雇用で働く人全体にとって概ね喜ばしいことだと思います。しかし、年収を扶養内に収めたいものの既に上限ギリギリになっている主婦層などの場合、最低賃金の上昇によってシフトに入れる時間が減少し、かえって働きづらくなったり仕事が見つけづらくなったりするケースもあります。働き手個々の課題に沿って必要なサポートを提供しなければ、有効な解決策とはなり得ません。
「非正規雇用」という名称は世の中に浸透しているものの、その内実に目を向けずに十把一絡げにするのはナンセンスです。雇用者全体の3%、非正規雇用者の1割にも満たない派遣社員を取り上げて「労働者派遣を解禁したから非正規雇用が増えた」などとまことしやかに都市伝説が語られてしまうことがあるのも、非正規雇用の内実に目を向けていない弊害の一つといえます。
非正規雇用者というザックリした括りが主語にされているうちは、非正規雇用を形成しているパートやアルバイト、派遣社員などが個々に抱える課題の違いに焦点が当たることはありません。そして、課題は解決されないまま、いつまでたっても“そこじゃない感”を生み出し続けることになるのではないでしょうか。
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