スポンサー企業の「ジャニーズ離れ」は拡がるか
今後注目されるのは、こうした「ジャニーズ離れ」がどこまで拡がりを見せるのかという点です。現時点で何らかの「ジャニーズ離れ」を大きく報道されている企業は下記の4社です。
- 東京海上日動火災保険 「広告契約の解除を検討」
- 日本航空 「広告起用を当面見送る」
- アサヒグループホールディングス「現在の契約は満了を持って解除」
- キリンホールディングス「広告契約を更新しない」
ただ、ジャニーズ事務所と契約しているスポンサー企業は100社を超えるといわれていますから、現時点で行動している企業は4社しかいないという見方もできます。
通常の契約タレントの不倫騒動や薬物問題であれば、広告の即刻停止や契約解除はもちろん、訴訟も視野に入れて問題発覚後即座に反応するケースが多いはずです。
それに対して今回は、事務所の会見まで多くの企業が態度を保留していた上に、今回行動した4社も、日本航空は広告起用見送りを表明しているものの、アサヒグループもキリンホールディングスも、既存の契約を解除するのではなく、更新をしないと言及しているだけですので、穏便な対応と言えます。
タレントとの契約を更新しないことや、契約解除を発表したスポンサー企業に対しては、当然と言う声もある一方で、一部のジャニーズファンから批判の声もあるようですから、スポンサー企業側は難しい判断を迫られていると言えるでしょう。
タレントとの直接契約を事務所側に打診する企業も出ていると報道されていますし、過去にタイガーウッズの不祥事を通じても支援を続けたナイキのように、今回の会見を受けても契約を解除しないという選択肢も当然あります。
(参考記事:ジャニーズ性加害問題 注目される「広告主」の今後の対応)
いずれにしても、こうした事件報道後のタレント起用は、日本においては他社の決定を見て判断する企業も少なくないため、週末の間に何らかの判断を行う企業が増える可能性は十分あります。
注目される外資系グローバル企業の動向
特にここで注目したいのは、外資系グローバル企業の動向です。未成年に対する性犯罪は、欧米では日本とは比べものにならない厳しい社会的批判や制裁がされる犯罪行為です。
今回の騒動で人権デューディリジェンスという言葉も注目されていますが、企業が人権侵害に加担することが、海外では非常に激しく批難されるようになっています。
未成年も含めた性犯罪を繰り返していたとされる人物としては、米国の投資家で、Netflixのドキュメンタリーにもなっているジェフリー・エプスタイン氏が有名ですが、このジェフリー・エプスタイン氏と交友のあった人物は何人も辞任に追い込まれました。
日本人でも、以前MITメディアラボ所長をされていた伊藤穣一氏が、ジェフリー・エプスタイン氏から資金提供を受けていたことが原因で辞任に追い込まれ、後に当時の決断を反省するコメントを発表されています。
(参考記事:伊藤穣一氏、資金提供問題を「深く後悔」 デジタル庁の有識者委員)
資金提供を受けていただけで、それだけの批判が巻き起こるわけですから、スポンサー企業とジャニーズ事務所との関係についても、今後海外からは厳しい目が注がれるのは間違いありません。
直近で象徴的なのは、櫻井翔さんのラグビー日本代表アンバサダー起用を、フランス大手紙「ル・モンド」に批判されているというニュースでしょう。
(参考記事:櫻井翔のラグビー日本代表アンバサダー起用を仏紙が批判 ジャニーズ性加害問題を受けて)
日本のメディアは気にしないかもしれませんが、フランスのメディアからすると、性犯罪の被害者に対してキャスターとしてコメントしていなかったという姿勢の面で、アンバサダーとして適切ではないと批判されてしまうわけです。
当然、外資系グローバル企業は、海外のメディアや消費者から同様の批判がされるリスクがあることになります。
現時点で、例えばP&Gジャパンは、ジャニーズ事務所に対して「被害者の救済や再発防止策に向けた具体的な行動計画」の提示を強く求めただけで、タレントのテレビCM起用に関しては判断を保留しています。
(参考記事:P&Gジャパン、ジャニーズに「被害者救済や再発防止」要請)
マクドナルドも「引き続き状況を注視」するとコメントをしているようですし、こうした外資系グローバル企業が、ジャニーズ事務所側の対応に満足せず、先行する日本企業同様に、起用の見送りや契約解除に踏み切ると、業界に大きな影響を与えるのは間違いないでしょう。
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