なぜ、深夜に「ネットで無駄な買い物」をしてしまうのか? 人間の知られざる心理:ビジネスの身近な「なぜ」を解明
「確かに買ったが、なぜ必要なのか分からない……」という宅配便が届いた経験は誰にでもあるのではないだろうか。実はそういった「無駄な買い物」は夜に起こっていることが多いという。身近なビジネスの疑問を人間心理の観点から読み解いていこう。
届いた宅配便の中身を思い出せないまま開封した経験はあるだろうか。中身が分かると「そういえば買った気がする」と思い出すが、そこまで緊急性も必要性も感じていない――そういった買い物は、実は夜〜深夜にしていることが多い。なぜだろうか?
この不思議な行動は「行動経済学」の観点からひも解くことができる。行動経済学は、時に非合理的ともとれる人間を理解し、消費者の行動を読み解く学問だ。
今回は「深夜にネットショッピングで散財してしまうのはなぜなのか?」について、米・オレゴン大学にて行動経済学の博士課程を修了し、現在は行動経済学コンサルタントとして欧米や日本で活躍する相良奈美香さんに話を聞いた。
気付いたら「ポチってた」 なぜ深夜に起こる?
なぜ無駄な買い物は深夜に起こりやすいのか? 人間の脳は夜になると疲労で制御力が落ちるからというのが大きな要因だ。
「朝は意志も強く、脳も働いているので制御できるのですが、夜は朝に比べて制御力が高くありません。朝は健康的な生活を心掛けるのに、夜になると疲労や面倒くさいといった理由からジャンクフードなどを食べてしまうのと同じ原理です」(相良さん)
日中の仕事や家事で疲れたわれわれは、無意識のうちに自分の気分を上げるものが欲しくなる。そのため夜は、衝動的に買い物をすることが多くなるという。
相良さんはこの対策として「深夜のショッピングではカートに入れるだけにして、翌朝買うようにすると良い」と助言する。脳が疲れていないときにカートを見ると「カートには入れたけど、これはいらないな。なぜなら……」と論理的に考えて制御できるからだ。
さて、ここで一つ疑問が浮かぶ。日本では、日中にも多くの通販番組が放送されている。昼間の脳は疲れていないはずなので、夜のような衝動買いを誘発するのは難しいように思える。番組にはどういう意図があるのだろうか。
相良さんは、番組を見ている層が関係していると説明する。昼間の通販番組は、家にいて何か面白いものはないかと探している人たちに向けているという。
「昼間の場合は『家事が楽になりそうだ』『楽しめるものはないかな』など、ポジティブな理由から購入につながることが多いです。ですが、夜は『この服可愛い。買っちゃおう』と、疲労感を埋めるような気持ちで買ってしまうのです」(相良さん)
行動経済学、日常で役に立つのか?
日本ではまだ認知度の低い行動経済学だが、学ぶことにより自らの身を守れるようになるという。例えば、SNSで何度も目にする商品を「欲しい」と思う気持ちや、今回取り上げた深夜のネットショッピング欲も抑制できるようになる。
「行動経済学は人をパーフェクトにさせるものではなく、より良い意志決定をする確率を上げるためのもの」(相良さん)
「人がなぜ行動するか?」が分かる行動経済学。一個人としてもビジネスの観点からしても、その深さに目が離せない。
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