新型センチュリーに見える形 これがSUVではない理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
筆者は新型センチュリーを見た時、なるほどこれはセンチュリーだと思った。まずもって、センチュリーに見えるという最初のハードルを越えられなければ何もスタートしない。新型センチュリーはそれを越えてきたのだ。
「豊田章男会長世代のセンチュリー」
さて、そのセンチュリーに追加モデルが加わったわけだが、すでに少し前から、「センチュリーSUV」のうわさは出ていた。実際ロールス・ロイスからはSUVモデルのカリナンが、ベントレーからもベンテイガがデビューして、売れている。センチュリーは国内販売に限らないという話を聞いて、すわカリナンとベンテイガのマーケットに参入か、とは訳知りの外野の見立てとしては至極まっとうである。
実際発表会ではマスコミから、「グローバル展開の計画は?」とか、「重点攻略する地域は?」というような質問が飛び交った。けれども、冷静に考えれば、手間がかかって月販30台のクルマである。生産キャパがそこで頭打ち。それ以上増やそうと思ったら工芸職人を養成するところから始めなくてはならない。だからトヨタの答えは温度感が低い。「センチュリーをお買い求めになるお客様がどこにご在住かという話であり、とくにエリア戦略のようなものはありません」とにべもない。
そもそも今回の追加モデルは何なのかといえば、それは「豊田章男会長世代のセンチュリー」ということになるのだと思う。従来のセンチュリーセダンは、豊田会長からすれば、初代センチュリー以来、その開発に濃厚に関わってきた父である故・章一郎名誉会長のクルマであった。誤解を恐れずにいえば、章一郎名誉会長が満足するクルマならばそれで良かった。それがどういうクルマかを通訳することは豊田会長にもできるが、それが「自分ごと」かといわれるとどうも違う。
2023年の経済人としての豊田章男氏が、自分が乗りたいショーファードリブンカーを作ろうとした結果が新しいセンチュリーであり、旧来型のショーファードリブンカーを求める人のために残したクルマがセンチュリーセダンである。
伝統的車種であるため、時間はかかると思うが、いつかスタンダードが変わって、セダンの生産が終わる日が来る。それを見越しているから、トヨタは追加モデルを「センチュリーSUVではなくセンチュリーと呼んでくれ」というのである。つまりこれが新しい時代のど真ん中センチュリーだと。その意思の表れだと思う。
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