パンはどこでも買えるのに、3990円のサブスクがなぜ人気? UX観点からワケを考える:グッドパッチとUXの話をしようか(3/3 ページ)
パンのサブスク「パンスク」が人気だ。毎月8個程度のパンが入って、3990円(送料込み)と決して安くはない。パンはスーパーマーケットやコンビニ、近くのパン屋、どこでも買えるがなぜ今、パンのサブスクが人気なのだろうか? UXデザイナーの筆者が解説します。
パン屋とユーザーの「気持ちや想い」までも考えている
ただし「売り上げ拡大」といっても、闇雲に拡大しているわけではありません。大事なのは、わざわざ月額3990円を払ってまでおいしいパンを食べたい人たち――つまりは「パンに思い入れのある層」に届けられることです。
「パンスク」で届いた箱を開けると、まず目に飛び込んでくるのは、パン屋からのメッセージカードです。パン屋の名称や所在地だけでなく、まるで手紙のような、パンへの想いのこもった文章が綴(つづ)られています。
こうして、おいしいパンを食べるだけでなく「今月はどこの、どんなパンだろう?」とワクワクする体験が生まれています。それはパンに対する思い入れがあるからこそ起きていることです。
メッセージカードはパン屋にとっても重要な意味を持ちます。毎日毎日、1個ずつ思いを込めて丁寧に作るパンだからこそ、ちゃんとおいしく食べてほしいもの。無機質に、システマティックに流通されるだけでは、きっとパンスクを選ばなかったパン屋もいるはずです。
パンスクに限らず、新しくサービスを創るときには「何ができるのか」という「機能的価値」を考えるだけでは不完全。「どのような気持ちになってほしいのか」、つまり「情緒的価値」もセットで考えることが重要です。機能だけでは人は動きません。
先ほど「あらゆるステークホルダーの体験を考えることが大切」と述べましたが、それは情緒的価値についても同様です。
ユーザーにとっての潜在的な価値がかなえられ、それと同時にパン屋の課題も解決されていく。そんな仕組みがあるからこそパンスクはうまく回っていますが、離脱せずに継続利用しているのは「気持ちや想い」の側面が大きいのです。
そのサービスを通して、どのような体験をしてほしいのか。その時にどんな気持ちになってくれるのか。機能だけでなく情緒面まで考え抜くことが、人気になるサービスを創るための絶対条件なのでしょう。まずは皆さん自身が愛用しているサービスの「情緒的価値」を考えてみることから始めてみると面白いのかもしれません。
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