「批判もあったが実行した」 比叡山延暦寺、8年間のDXの取り組み:伝統とデジタル(2/4 ページ)
InstagramやYouTubeで国内外に情報発信し、入場チケットは電子化に対応し、組織内ではビジネスチャットを導入――比叡山延暦寺がここまで積極的にDXを取り入れていたのをご存じだろうか。デジタル化に舵を切ったのは8年ほど前。なぜこうした動きを活発化させているのだろうか。理由を探るため比叡山に向かった。
テレビや新聞などでの情報発信だけでは……
先述したように、延暦寺がデジタル化に注力し始めたのは約8年前。いくつかの環境を整えた後に、着手したのがSNSだった。
これまで延暦寺では情報発信の手段として、60年ほど前から制作するKBS京都のテレビ番組「比叡の光」「比叡山時報」という新聞発行に加えて、Webサイトがあった。だが、時代とともにこれらのツールだけでは限界を感じるようになった。
「Webサイトは以前から運用していましたが、ユーザーがわざわざアクセスしなければなりませんよね。また、昨日、今日といった最新の情報を常に更新するのは難しい。しかし、SNSはフォロワーに対して自動的に情報提供できるし、情報のリアルタイム性もあります」と今出川氏は意図を説明する。現に、Instagramに投稿されたイベント情報などを見て、延暦寺にやってくる客は多いという。
延暦寺がSNS立ち上げを検討していた当時、総本山クラスで運用していた寺は少数だった。そうした中で成果を上げていたのが京都・清水寺だった。多くの人たちがイメージする清水寺とは違う表情の写真を見せることで、国内外のユーザーの心をつかみ、一気に万単位のフォロワーがついたのである。
そうした刺激もあって、2018年3月、延暦寺はTwitterをスタート。本心としてはもっと早く着手したかったというが、末寺などとは勝手が違い、日本を代表する総本山の延暦寺となると独断で決めるわけにはいかなかった。組織内外のさまざまなしがらみを乗り越える必要があったのだ。
情報発信に力を入れる目的は、もちろん延暦寺の魅力を広く伝えるのが第一義である。加えて、集客も重要なテーマだった。
「比叡山に来るのは、基本的にご参拝に来られる方が中心。でも、きっかけは何でもいいと思っている。お茶を飲みにくる、歩きにくる、いいじゃないですか。今では世界中のどこからでもスマホ1台で比叡山のことを調べられるけど、実際に訪れることで初めて得られる感動がある。だからこそ、足を運んでもらうためにも、いろいろな側面を発信しなくてはと思いました」(今出川氏)
ターゲットは国内に限った話ではない。SNSを使って外国人にもアピールしたいと考えていた。10年代後半、日本はインバウンドバブルに沸いたが、実は比叡山はそれほど海外観光客が多くなかった。コロナ禍直前には年間参拝者数が約50万人いたが、そのうちの2割程度にとどまっていた。ちなみに、高野山金剛峯寺は真逆で、大半が海外観光客で溢れかえっていた。
高野山が人気だった要因の一つに、宿坊の存在がある。延暦寺の宿泊施設は延暦寺会館しかない。このように環境が違うため単純比較はできないが、当然、延暦寺としてもインバウンドに対応する必要性を感じていた。そのためにも情報発信の強化は不可欠だった。
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