「批判もあったが実行した」 比叡山延暦寺、8年間のDXの取り組み:伝統とデジタル(3/4 ページ)
InstagramやYouTubeで国内外に情報発信し、入場チケットは電子化に対応し、組織内ではビジネスチャットを導入――比叡山延暦寺がここまで積極的にDXを取り入れていたのをご存じだろうか。デジタル化に舵を切ったのは8年ほど前。なぜこうした動きを活発化させているのだろうか。理由を探るため比叡山に向かった。
電子チケットで外国人にアピール
もう一つ、インバウンド需要の取り込みに関係するデジタル化が、電子チケットの導入だ。19年6月に「Tiqets」を採用。これはオランダ発のオンラインチケット販売サービスで、延暦寺の拝観料や国宝館のチケット、比叡山のアクティビティーツアーなどをオンラインで購入できるようにした。
同サービスの既存ユーザーである外国人への認知度アップに加えて、事前にチケットが買えるという利便性の高さを訴求することが狙いだった。実は、電子チケットの取り組みはTiqetsが初めてではなく、京阪電気鉄道が販売するQRコード搭載チケットも取り扱っていた経験があった。
とはいえ、取り扱うチケットが増えることで延暦寺の窓口業務の負担は増大した。
「チケットの種類がいろいろとあると窓口の担当者は困りますよね。年配の職員が多いから覚えるのが大変だし、(電子チケットを使う)個人参拝者に加えて、団体参拝者の対応もある。作業がとても煩雑になっていて、現場には苦労をかけました」(小鴨氏)
職員も何とか小慣れてきた矢先、世の中を新型コロナウイルスが襲う。延暦寺への来訪者も一気に途絶え、閑散とする日々が続いた。22年になって年間参拝者数はようやく40万人弱に戻った。
現金購入を徐々に減らしていきたい
インバウンドの獲得を主目的に導入したTiqetsだったが、コロナ禍で活用機会がめっきり減ったことで、国内客にリーチできる類似サービスを探していた。そこに白羽の矢が立ったのが、施設などのチケット予約サービス「アソビュー」だった。きっかけは共通の知人の紹介だったが、業界最大手ということで幅広い層へアプローチできることや、日本に本社があることに安心感を得て採用を決めた。
「テレビも見ない、旅行雑誌も買わない代わりに、今後はデジタルサービスで観光情報を得る人はますます増えていくはず。アソビューを通じて延暦寺の情報を見た全員がチケットを買わないにせよ、そのうちの1〜2割の人が購入してくれるだけでも大きい。そんな期待もあって導入しました」(今出川氏)
なお、延暦寺では数年前から電子チケットを取り扱ってきたものの、今でも基本的には窓口での現金購入が圧倒的に多い。ただ、徐々にデジタル化に切り替えていきたい思いはある。
「個人の参拝者については、本当は窓口ではなく、事前にチケットを買ってもらったり、スマホ決済にしていきたい。対面でやりとりするのは団体客だけで、個人のお客さんには各自QRコードを読み込んで入場してもらえるようになれば、窓口の業務負担はグッと減ると思います」(小鴨氏)
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