政府の雇用支援、どれも上すべり 賃金アップ、年収の壁解消……真の目的は「現状維持」?:働き方の見取り図(1/4 ページ)
リスキリングの推進に5年で1兆円の予算を注入する、最低賃金1500円を目指す――矢継ぎ早に打ち出される政府の施策は、本当に働き手が効果を実感できるものなのか。
「いまの仕事はいつまで続けられるのか」「給料を上げてほしい」――。ちまたでは、雇用をめぐる不安や不満の声があちこちで聞かれます。
政府はリスキリングの推進に5年で1兆円の予算を投入する、最低賃金1500円を目指す、男性育休を促進する、「年収の壁」解消へ対策を打つ――などと、キャッチーなキーワードを掲げて施策を推し進めています。
多方面に進められている施策を見ていると、雇用労働周りの課題解決に向けて広く手が打たれているように見えます。これら矢継ぎ早に打ち出される政府の施策は、本当に働き手が効果を実感できるものなのでしょうか。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
「リスキリング+転職成功で56万円補助」に新規性はない
政府肝入りのリスキリング推進は、既に動き始めています。生成AIの登場などで、テクノロジーが仕事に及ぼす影響は新しい段階に入りました。仕事をする上で必要とされるスキルの大幅な変化に対応するため、リスキリングが国民にとって必須の課題になっていることは間違いありません。
経済産業省の『リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業』のWebサイトには「キャリア相談、リスキリング、転職までを一体的に支援」と事業内容の説明があり、「転職を実現し、継続就業すれば、最大56万円の補助」とうたわれています。
また、受けられるサービス・講座のイメージとして「未経験からWebエンジニアへ」「未経験から介護職へ」「未経験から技術者へ」「ベンチャー企業への転職」の4つが示されており、サービスを提供する民間事業者の一覧が参照できるようになっています。
リスキリングは時代の変化に取り残されないために必要で、これらの講座を受講することには少なからず意義があります。しかし、予算を出して、さまざまな講座を開設することはできても、キャリア相談の効果が高まり転職斡旋がよりしやすくなるわけではありません。施策の内容自体はこれまでも民間の人材サービス事業者が自社サービスとして取り組んできた範疇(はんちゅう)にとどまっています。
リスキリングやキャリア相談とセットにして転職というゴールにたどり着こうとしても、そう簡単には行きません。リスキリングを経て高度なスキルを身につけたとしても、いざ就職となると、大抵の職種では実務経験が問われるからです。
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