政府の雇用支援、どれも上すべり 賃金アップ、年収の壁解消……真の目的は「現状維持」?:働き方の見取り図(3/4 ページ)
リスキリングの推進に5年で1兆円の予算を注入する、最低賃金1500円を目指す――矢継ぎ早に打ち出される政府の施策は、本当に働き手が効果を実感できるものなのか。
本当の目的は現状の仕組みを変えないこと?
政府が10月に発表した「年収の壁」対策も、25年に行われる年金制度改正までのつなぎです。現時点においては、やはり現状維持の施策となっています。これら一連の取り組みを見ている限り、本当の目的は現行の雇用周りの仕組みを変えないことであり、それをカモフラージュしようとさまざまな施策を走らせているようにさえ見えます。
ただ、現行の雇用周りの仕組みにはさまざまなゆがみが表れています。能力不足を理由に社員を解雇できないという重しがある限り、会社は採用に慎重にならざるを得ません。もし、もっと頻繁に労働移動が行われるような仕組みに変えていくのであれば、会社が思い切って採用した人材の能力が不足していたと判明した場合には、相応の金銭保障の下に解雇できるといったリスクヘッジできる制度の検討が必要です。
また、男性の育休取得を促進するには、人々の価値観が移り変わるのをただ待つのではなく、学校教育で育児や家事に関するカリキュラムを家庭科の授業に組み込むなど、子どものころから男性の認識を変えていくような積極的な取り組みも検討の余地があるはずです。
さらに、誰かが休めば業務が回らなくなるようなギリギリの人員体制ありきの考え方から、育休や有給休暇などで社員が休むことを前提にした人員体制を確保した上で、かつ生産性を上げていける職場づくりへと切り替えるよう促す施策なども求められます。
残念ながら、いま政府が走らせている施策には、これら雇用周りの仕組み改善にまで踏み込んだ取り組みがほとんどありません。
関連記事
- 西武池袋ストを「無意味」だと言った人へ “小さき声”を過小評価すべきでない理由
ストライキやSNSでの発信――近年、個々の“小さき声”がきっかけとなって、長い間岩盤のように固かった理不尽なルールや慣例に穴が穿たれる事例が増えている。“小さき声”がこれからの職場に与える影響とは――。 - 台風でも出社……テレワークできない企業が抱える3大リスク
コロナ禍を経て一度は根付いたテレワークだが、出社回帰が急速に進んでいる。ワークスタイル研究家の川上敬太郎氏は、テレワーク環境を整備していない企業が陥る3つのリスクを指摘する。 - 年間の通勤時間は休日20日分に相当 テレワークが生んだ3つの課題
コロナ禍でテレワークが市民権を得たが、出社回帰の動きが鮮明になっている。オフィス出社か在宅か、はたまたハイブリッド型か――。最適解はどこにあるのか。 - 「週休3日」の前に……「消えている有給」こそ問題視すべき理由
政府は6月に発表した骨太方針で「選択的週休3日制度の普及に取り組む」と発表した。週休3日制の導入を表明する企業も出てきている。しかし、週休3日制は、本当に望ましい休み方だと言えるのか。 - ビッグモーター不正 忖度した「中間管理職」は加害者か被害者か?
会社が組織ぐるみで不正を行った場合、トップの意思決定者と不正を実行した社員との間に位置する中間管理職は、加害者か被害者のどちらになるのか――。上司に盲目的に忖度する中間管理職は、企業を滅ぼしかねない存在でもあると筆者は指摘する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.