政府の雇用支援、どれも上すべり 賃金アップ、年収の壁解消……真の目的は「現状維持」?:働き方の見取り図(4/4 ページ)
リスキリングの推進に5年で1兆円の予算を注入する、最低賃金1500円を目指す――矢継ぎ早に打ち出される政府の施策は、本当に働き手が効果を実感できるものなのか。
完全に停滞したテレワーク
数は少ないながらも、中には仕組み改善へとつながりそうな事例が見られます。その一つが、働き方改革関連法に定められ19年から順次施行された残業時間の上限規制です。
慢性的な残業過多に陥るトラックドライバーや医師などへの適用は先延ばしされていたものの、24年からは対象となるため、この規制によって業務そのものを見直して再構築する動きが出始めました。運送や医療は社会になくてはならない機能である一方で、残業規制は順守しなければならないというジレンマの中、働き手に無理をさせるだけでは解決できない状況があらわになり、業務自体の仕組みを見直す方向に目が向くようになったのです。
業務を見直すには、トラック運送会社や病院など直接規制を受ける職場だけではなく、顧客も含めたサプライチェーン全体の仕組み再構築が必要になります。厚生労働省では、小芝風花さんを起用したPR動画「はたらきかたススメ」シリーズを公開して、職場だけでなく発注側や顧客も含めた啓発を積極的に行っています。
「年収の壁」対策も25年にまで先延ばしされていますが、残業時間の上限規制同様、雇用周りの仕組みの再構築に踏み込むことまで想定しない限り、思い切った施策の打ち出しは期待できないでしょう。
他にも、時短勤務や時差出勤といった柔軟な働き方の推進、シニアや主婦層、障害者の活躍促進などの施策においても、現行の雇用周りの仕組みのままストレッチする範囲にとどまる取り組みばかりです。さらに、コロナ禍にあれだけ注目を集めたテレワーク推進に至っては、完全に停滞してしまい、これといった施策すら打たれていません。
政府がキャッチーなワードを並べたPRや巨額予算の確保に長けていることはよく分かりました。しかし、まず取り組むべきは、雇用システムの新たなグランドデザインを示し、雇用周りの仕組みの再構築に向けて踏み出すことです。
いまの延長線上にある施策の焼き直しをキャッチーなワードでごまかしている限り、雇用をめぐる不安や不満の声は報われず、隔靴掻痒(かっかそうよう)のままいつまでも上すべり感が伴い続けることになるのではないでしょうか。
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