なぜ西武鉄道は中古を購入するのか 東急と小田急にも利点がある:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
2023年9月26日、東急電鉄と小田急電鉄の中古車両を西武鉄道に譲渡すると、3社連名で発表した。今回は日本の鉄道史上極めて珍しい事例で、鉄道事業経営の面からも興味深い。そしてこの西武鉄道発案の電車売買は、結果として3社にとって利点のある提案だった。
なぜ珍しいかというと、従来の「鉄道車両の譲渡」は、「大手私鉄の引退車両を地方の私鉄が譲り受ける」という事例が多かったからだ。大都市に住む人々が旅行や出張で地方に出掛けると、そこには地元の鉄道会社があって、よく見ると子どもの頃や高校時代に乗っていた電車だった。そんな経験をした人も多いだろう。
例えば、京王電鉄井の頭線で活躍していた電車が北陸鉄道(石川県金沢市)や岳南鉄道(静岡県富士市)で走っている。小田急ロマンスカーが長野電鉄(長野県長野市)や富士山麓電気鉄道(山梨県大月市〜富士吉田市)で走っている。
東急東横線で活躍したアオガエルこと5000系電車も全国に譲渡され、そのうち製造番号1号車(5001)は特に数奇な運命をたどった。上田電鉄(長野県上田市)に譲渡、廃車後は東急電鉄に返却されて渋谷区に譲渡され、渋谷駅ハチ公前のシンボルとして親しまれた。現在はハチ公の故郷、秋田県大館市で保存展示されている。なお、同型車は熊本電鉄で16年まで現役で、現在も運転体験などイベントに使われている。
私も高校生の頃に十和田観光電鉄(青森県十和田市・12年廃止)に乗ったら、初めて乗った路線なのに、ふとシートの座り心地やモーター音で懐かしくなった。製造銘板を見たら、子どもの頃に親しんだ東急池上線の電車だった。こういう出合いは楽しい。
このように、大手私鉄の電車が地方私鉄へ譲渡される理由はお察しの通り。地方私鉄は財力に乏しいから。新型車両を発注、製造するより、中古車両を譲受した方が安上がりだ。電車のように大きな産業機械は少数生産だと割高で、大量生産だと若干安い。したがって大手私鉄が大量導入する車両は低価格で譲渡される。東急や西武は地方の関連会社を支援するために譲渡するという側面もある。
身も蓋(ふた)もない話だけれど、お金持ちの大手私鉄のお下がりが地方私鉄にやってくる。これが常識だった。
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