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MAPPA単独『呪術廻戦』大成功の一方で……「製作委員会方式」は本当に悪なのか?:エンタメ×ビジネスを科学する(2/4 ページ)
『呪術廻戦』が人気だ。同アニメの制作会社のMAPPA(東京都杉並区)が実行した「単独出資方式」に脚光が当たっている。これまで主流だった「製作委員会方式」とはどう違うのか? それぞれのメリット・デメリットは。
では、製作委員会方式と単独出資の違いについて、それぞれのメリットとデメリットは何か。端的に述べると下記のように整理できる。
製作委員会方式
- メリット
- 複数の企業が出資することで、アニメビジネスにおける費用やリスクを分散できる。
- 出資企業がそれぞれの強みやネットワークを生かし、作品の放送放映やプロモーション、関連物品販売を行える。
- デメリット
- 複数の企業が出資することで、権利や収益配分が複雑になる。
- 出資比率や契約内容次第では、企業同士の利害が衝突する場合がある。
- 権利処理やビジネス展開に関する調整に手間を要する。
例えば、製作委員会の出資企業としてテレビの放送局が入るとしよう。
そうすると、音楽会社であれば関連音源の販売、玩具会社やゲーム会社であれば関連商品の開発・販売の権利を放送局も保有することになる。よって、テレビを含めたさまざまな形で作品を展開できるのが強みだ。
一方で、各企業はそれぞれのビジネス領域における目標を達成することが目的となる。そのため各企業が個別最適を図り、コンテンツとしての全体最適に向かわない場面が生じうる。
単独出資方式
- メリット
- 予算配分や制作スケジュールについて、自社のみの判断で調整できる。
- 自社で全ての権利と収益を管理することで、複雑な契約や交渉を省ける。
- 他社からの干渉や制約を受けず、自社の判断で製作に取り組める。
- 収益は配分などを考慮することなく自社のものにできる。
- デメリット
- ビジネス展開に失敗した場合、負の影響が大きい。
- 権利処理やビジネス展開を行うノウハウを持っていない場合、外部へのコスト流出が大きくなる。または、ビジネス展開ができず収益につながらない。
「アニメ制作の現場が困窮している要因は、製作委員会方式にある」と勘違いされがちだが、製作委員会方式はリスク分散の一つの手段であり、それ自体は悪でも善でもない。
上述の鬼滅の刃に関しても、製作委員会と銘打たれていないため勘違いされがちだが、アニプレックス・集英社・ufotableの3社がクレジットされており、方式でいえば製作委員会方式だ。つまり、方式そのものが成功・失敗をわける要因にはならない。
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