退職希望者は引き留めるな 「慰留」がもたらす3つの損失:働き方の見取り図(4/4 ページ)
退職の意思を会社に伝えたのに、人手不足を理由に退職届の受け取りを拒否されたケースなどが増えている。退職の意志が強い社員を無理に引き留めることは、会社にとって大きなデメリットを伴うと筆者は指摘する。
会社と働き手それぞれのニーズが変化していく中で、常に双方のニーズが合致し続けるとは限りません。いま自社に必要なスキルを有する社員が社外にいる可能性があるのと同様に、社員にとっても、いま自分にとってベストな就業場所が他の会社である可能性があるのです。
退職者を悪者扱いする会社は、社員という人材(人が持つ才能)を自社が独占できる資産だと根本的に勘違いしている点で共通しています。会社が社会の公器と言われるように、人材もまた、社会全体の共有資産に他なりません。
苦楽を共にした仲間が退職すれば、心情的に寂しい思いを抱くのは致し方ないことです。ただ、それは決してその社員との永遠の別れではなく、人材という社会共有の資産との間に生じる、新しい関係性の始まりに過ぎません。
そのため会社は、退職者を無理に引き留めるより良好な関係性の構築に注力した方が、未来に渡ってメリットが期待できます。退職後も前職と良好な関係を続けた方がメリットが期待できるのは、働き手側にとっても同じです。「退職するのだから構うものか」と不誠実な態度をとれば、副業やアルムナイ制度などを通じて前職とつながる機会を失うことになります。
引き留めてよい、ただ一つのケースとは?
一方で、社員が退職を希望した時、会社が引き留めてもよいケースが一つだけあります。それは、会社に残った方がその社員が幸せになると考えられる場合です。
中には、隣の芝生が青く見えて若気の至りで飛び出してしまったり、「高待遇で迎えたい」などとオイシイ話に目がくらみ、ブラック企業に誘われたりすることもあります。あるいは、会社が課題改善に取り組んでいる最中で、辞めずに踏ん張って、一緒に乗り越える経験をした方が社員のキャリアにおいてプラスになる可能性もあります。
社員の幸せを願った上での引き留めであれば、社員にとっても会社にとっても望ましい選択となりえます。ただし、その場合も社員の納得が得られないまま無理な引き留めを行うと、やはり会社はデメリットを被ることになります。
社員として所属しているか否かにとらわれず、退職を会社と働き手双方にとっての新しい関係の始まりと見なし、ニーズが合致した際に都度、最適な形でお互いを選び合うようになれば、会社にとっても働き手にとっても社会にとってもWin-Win-Winとなるポジティブな循環が形成されます。
社員のことを自社が独占している資産と見なし、退職した社員を悪者扱いする会社は、そんなポジティブな循環に加わることができずに取り残されていくに違いありません。
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