退職希望者は引き留めるな 「慰留」がもたらす3つの損失:働き方の見取り図(3/4 ページ)
退職の意思を会社に伝えたのに、人手不足を理由に退職届の受け取りを拒否されたケースなどが増えている。退職の意志が強い社員を無理に引き留めることは、会社にとって大きなデメリットを伴うと筆者は指摘する。
退職をポジティブに見ることで得られるメリット
一方、退職を新たな機会と捉え直してポジティブに受け止めると、会社にとっても退職する社員にとってもメリットがあることが見えてきます。中でも大きなものを3点挙げます。
まず、社員が退職したとしても、副業として業務を依頼できる可能性があることです。経団連の調査によると、社員が社外で副業・兼業することを「認めている」会社は2014年に26.2%。それが22年には53.1%と8年で倍増しており、「認める予定」17.5%を含めると約7割です。副業を認める機運がすごい勢いで高まってきていることがうかがえます。
いまや所属する会社の仕事だけに縛られる時代ではなくなりつつあり、退職した社員であっても、副業で引き続き戦力になってくれる可能性が広がってきているのです。
次に、一度退職しても再び社員として再入社するケースもあります。退職した人材はアルムナイ(alumni:卒業生)と呼ばれ、アクセンチュアやヤフー、三井住友海上火災などアルムナイ制度を整えて、退職した社員たちと定期的にコミュニケーションをとっている会社は既に多数存在します。
退職した社員は、新たな職場で新たな経験を積むことで、人材としてさらに成長していることが期待できます。一方で、自社の社員だっただけに、企業文化や会社に関する基本的な情報を把握している即戦力です。組織化されたアルムナイとのパイプは、将来再入社する可能性も踏まえた採用見込みデータベースとなりえます。これは採用難の労働市場において強力なツールです。
最後に3点目として、退職した社員が次の仕事に就いた際、取引先になる可能性もあります。元社員が転職した会社で購買などの部門を担当すれば、それがきっかけとなって新たな取引が始まり、ビジネスが広がるかもしれません。あるいは元社員が起業したのであれば、その会社の社長として新たな取引を始めてくれるかもしれません。
このように、退職を新たな機会と捉え直してポジティブに受け止めると、さまざまなメリットが見えてきます。しかし、これらのメリットを享受するには、退職後の社員との関係性が良好なものでなければなりません。退職をネガティブに捉え「負け犬だ」「裏切りだ」と退職者を悪者扱いしている会社には、決して得ることのできないメリットです。
会社が必要とする人材像は、VUCA(ブーカ、※)と言われる流れの速い市場環境の中で激しく目まぐるしいスピードで変わっていきます。一方で働き手も、磨きたいスキルや成し遂げたい仕事、実現したいライフスタイルなどの志向は多様化し、またライフイベントなどに応じて都度変わっていきます。
※VUCA:「Volatility:変動性」「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」「Ambiguity:曖昧性」の頭文字を取った造語。ビジネスにおいて未来予測が難しくなる状況を指す。
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