退職希望者は引き留めるな 「慰留」がもたらす3つの損失:働き方の見取り図(2/4 ページ)
退職の意思を会社に伝えたのに、人手不足を理由に退職届の受け取りを拒否されたケースなどが増えている。退職の意志が強い社員を無理に引き留めることは、会社にとって大きなデメリットを伴うと筆者は指摘する。
無理な引き留めがもたらす3つのデメリット
まず、退職希望者自身のモチベーションダウンです。もし、退職希望者のやりたいことが明確で、それが自社ではかなえられない場合、無理やり引き留めてもイヤイヤ働き続けることになります。また、会社に何らかの不満があって退職したい場合は、その不満を改善することができない限り、会社に残ったところでモチベーションが上がるはずがありません。
次に、他の社員への悪影響です。退職希望者は、その会社で働きたくないわけですから不満分子となります。中には、気持ちを切り替えて一所懸命業務に打ち込む社員もいるかもしれませんが、大抵は会社に対してネガティブな感情をくすぶらせます。
そして、業務に消極的な取り組み姿勢をとったり、何かにつけて会社に対する批判めいたことを言ったりしがちです。すると、その様子を見聞きしている他の社員にも同調する者が現れ、同様に消極的な姿勢をとったり、会社批判をしたりする可能性があります。
会社から見ると、ドラマ「3年B組金八先生」で言うところの“腐ったミカンの方程式”状態です。箱の中に一つでも腐ったミカンが入っていると、徐々に他のミカンにも伝染して腐ってしまう様子に似ていることからそう呼ばれます。しかし、そのように社員の気持ちを腐らせてしまうのは、会社による無理な引き留めが原因です。
社員の意志を会社はコントロールできない
最後3点目は、社員の意思を尊重しない組織であるというメッセージを社内外に発信してしまうことです。社員は一人一人異なる意思を持っています。退職したいという希望もまた社員の意思であり、それを認めないということは、社員の意思よりも会社の都合を優先するというスタンスを自ずと示すことになります。
出世したい、稼ぎたい、専門スキルを身につけたい――など、社員は何らかの意思を持って仕事に従事しています。しかし、その意思がかなえられない会社であれば退職を希望するのは当然です。それなのに会社が拒絶すれば、不本意な状態で会社に残り続ける社員の存在自体が、ネガティブな広告塔となってしまいます。
退職希望者の意思に反して無理やり引き留めたところで、会社側はこれらのデメリットを抱えるだけです。また、弁護士や代行事業者などが行う退職サポートサービスも多数存在しているため、退職を引き留められたと安心していたら、突然出社しなくなり、代行会社を通じて退職の意思が伝えられるということも起こりかねません。そうなるとかえって人員計画が立てづらくなります。
そもそも、退職を含め社員の意思は会社側でコントロールできないものです。また、中には心身の不具合や家庭の事情など引き留めようもないケースもあります。そんなアンコントロールな退職をネガティブに受け止めたところで、会社にとってのデメリットしか見えてきません。
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